親から実家などの不動産を相続した際、遺産分割協議がまとまらないまま「とりあえず相続人全員の共有名義」にして手続きを済ませてしまうケースは少なくありません。しかし共有名義の不動産は、いざ売却しようとすると一人の判断では進められず、トラブルに発展しやすいという特徴があります。この記事では、相続で共有名義になった不動産がなぜ売りにくいのか、共有者の同意が得られないときにどう対処すればよいのかを解説します。
相続でなぜ「共有名義」になるのか
相続人が複数いる場合、遺産分割協議が成立するまでの間、相続財産は相続人全員の共有(遺産共有)という状態になります。改正民法898条2項では、この遺産共有における各相続人の持分割合は、個別の事情を反映した「具体的相続分」ではなく、法定相続分(遺言などで相続分の指定がある場合は指定相続分)を基準に算定することが明記されました。つまり、遺産分割協議をせずに放置すると、不動産は法定相続分に応じた共有名義のまま固定されてしまいます。
共有名義の不動産はなぜ売りにくいのか
不動産全体の売却には共有者全員の同意が必要
民法上、共有物に変更・処分を加える行為(不動産全体の売却はこれにあたります)は、共有者全員の同意がなければ行うことができません。一方、共有物の管理に関する事項や、形状・効用に著しい変更を伴わない「軽微な変更」については、共有者の持分の価格に従った過半数の同意で決定できるとされています。共有者の一人でも売却に反対したり連絡が取れなかったりすると、不動産全体の売却は事実上ストップしてしまいます。
- 不動産全体の売却=共有者全員の同意が必要(民法251条)
- 管理・軽微な変更=持分価格の過半数で決定可能(民法252条)
- 自分の持分だけの売却=単独でも可能(民法206条)
なお、自分の持分だけであれば他の共有者の同意を得ずに単独で売却すること自体は可能です。ただし持分だけの買い手は限られ、投資家や買取業者が新たな共有者として加わることで、かえって話し合いが難しくなるケースもあるため注意が必要です。
共有者の同意が得られないときの対処法
共有者間の話し合いで折り合いがつかない場合、主に次のような方法が考えられます。
- 他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう、または他の共有者の持分を買い取る
- 共有物分割請求訴訟を提起し、裁判所の判断を仰ぐ
- 共有者の一部が所在不明の場合は、裁判所の関与により変更・管理を可能にする制度を利用する
協議が整わない場合、共有者は共有物分割請求訴訟を提起できます(民法258条)。裁判所は、現物を分けて分割する方法のほか、共有者の一人が他の共有者の持分を取得して代金を支払う方法(価格賠償)、それも難しい場合は競売により換価して代金を分ける方法を、事情に応じて選択します。また2023年4月に施行された改正民法により、共有者の一部が所在不明・行方不明であっても、裁判所の決定を得たうえで残りの共有者の同意により変更行為や管理を行える制度が新設されており、連絡の取れない共有者がいるケースでも売却の道が開けやすくなりました。
売却したときの税金にも注意
共有名義の不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、譲渡所得は共有者それぞれの持分に応じて按分して計算し、共有者一人ひとりが自分の分を確定申告する必要があります。マイホームを売ったときに使える特別控除なども、共有者全体で一つ分ではなく、要件を満たす共有者それぞれに個別に適用される点は覚えておきたいポイントです。
まとめ
相続で共有名義になった不動産は、放置すればするほど二次相続でさらに相続人が増え、権利関係が複雑になって売却のハードルも上がっていきます。共有者全員の意思をまとめるのが難しいと感じたら、早めに不動産会社へ相談し、査定額や売却の選択肢を共有者間で共有することがトラブル回避の第一歩です。相続登記の義務化についても、あわせて確認しておくとよいでしょう(相続登記の義務化とは|2027年3月の期限と10万円の過料を解説)。