海外在住の相続人が実家を売却・買取してもらう方法|必要書類と源泉徴収

海外在住の相続人が日本の実家を売却するときの必要書類と源泉徴収の解説

海外に住んだままでも、日本にある相続した実家は売却できます。必ず帰国しなければならないわけではなく、在外公館で取得する「署名証明(サイン証明)」と「在留証明」をそろえれば、印鑑証明書や住民票が取得できなくても遺産分割協議・相続登記・売買契約を進められます。ただし、日本に住所を持たない相続人(非居住者)が売主になると、買主には売却代金の10.21%を源泉徴収する義務が生じ、入金額が一時的におよそ1割減ります。この分は翌年の確定申告で精算・還付を受けられますが、そのためには決済より前に納税管理人を決めておく必要があります。この記事では、必要書類の取り方から源泉徴収と還付の流れ、税金の特例、書類のやり取りに時間をかけられない場合の買取という選択肢まで、国税庁・法務省・外務省の公表情報をもとに整理します。

海外在住の相続人でも実家は売却できる|先に知っておく3つの壁

手続きの骨格は日本在住の場合と同じです。遺産分割協議で取得者を決め、相続登記で名義を移し、買主と売買契約を結んで決済する。変わるのは「本人確認をどうやるか」「税金をどう取りきるか」の2点で、そこから3つの壁が生まれます。

壁1:印鑑証明書と住民票が取れない

日本の不動産取引と相続登記は、実印と印鑑証明書を前提に組み立てられています。ところが海外転出届を出して住民登録を抜くと印鑑登録が消え、印鑑証明書も住民票も発行されなくなります。この場合は、印鑑証明書の代わりに在外公館(大使館・領事館)の署名証明を、住民票の代わりに在留証明を使います。法務省も、遺産分割協議書や委任状などに在外公館の署名証明を添付する扱いを示しています(法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて」)。書類が取れないから売れない、ということはなく、取る場所と種類が変わるだけです。

壁2:売却代金から10.21%が源泉徴収される

非居住者から日本国内の土地等を購入し、その譲渡対価を国内で支払う買主は、支払いの際に10.21%の所得税および復興特別所得税を源泉徴収し、原則として支払った月の翌月10日までに国に納付する義務があります(国税庁 No.2879 非居住者等から土地等を購入したとき)。買主側の義務なので売主は断れません。あとから精算される前払いですが、3,000万円の売却なら約306万円が差し引かれた状態で決済を迎えるため、売却代金で相続税を払う予定なら資金計画に織り込む必要があります。

壁3:契約・決済の立ち会いをどうするか

代金の受領と登記申請を同時に行う決済は、本来は売主本人が立ち会う場面です。海外在住だと、往復の渡航費と休暇を用意するか、日本にいる親族や専門家に委任するかを選ぶことになります。委任で進める場合は、委任状に署名証明を綴じ込む形式(形式1)で用意するのが一般的です。ただし委任で進められるかどうかは相手方次第で、買主や金融機関、司法書士が本人確認の方法をどこまで認めるかによって扱いが変わります。査定を依頼する段階で「相続人が海外在住で、帰国せずに進めたい」と先に伝えておくと、対応できる会社かどうかが早い段階で分かります。

売却までの流れと、見落とすと損をする4つの期限

海外在住のケースで一番多い失敗は、手続きの難しさそのものではなく「気づいたら期限を過ぎていた」というものです。書類の往復に時間がかかるぶん、日本在住の相続人と同じスケジュール感で動くと間に合いません。

相続発生から売却完了までの5ステップ

実務上の流れは次の5段階です。海外在住の相続人がいる場合、②と③に日本国内だけのケースの2〜3倍の時間がかかると考えてください。

  1. 相続人と相続財産の確定(戸籍の収集、不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書の取得)
  2. 遺産分割協議と協議書の作成、海外在住者の署名証明・在留証明の取得
  3. 相続登記の申請(不動産の名義を相続人へ移す)
  4. 不動産会社への査定依頼・売却活動、または買取業者への売却
  5. 売買契約・決済(このとき10.21%が源泉徴収される)、翌年の確定申告で精算

③の相続登記を済ませないと④以降には進めません。名義が被相続人のままの不動産は売却できないためです。海外在住者がいると②で止まりがちなので、戸籍の収集(①)と並行して在外公館の予約状況を調べておくと全体が短くなります。

4つの期限を一覧で確認する

相続不動産の売却に関わる期限は、性質の違うものが4つあります。過ぎても手続き自体はできるものと、過ぎると税制上の特例が使えなくなり金額に直結するものが混在している点に注意してください。

期限 内容 起算点 過ぎるとどうなるか
10か月 相続税の申告・納税 相続の開始があったことを知った日の翌日 加算税・延滞税がかかる場合がある
3年 相続登記の申請義務 不動産の取得を知った日(遺産分割成立時はその日) 正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象
3年目の12月31日 空き家の3,000万円特別控除 相続の開始があった日 控除が使えず譲渡所得税の負担が増える
3年10か月 取得費加算の特例 相続開始の翌日(相続税の申告期限の翌日以後3年) 納めた相続税を取得費に加算できなくなる

相続税の申告・納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205 相続税の申告と納税)。相続登記は2024年4月から義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります(法務省「相続登記の申請義務化について」)。詳細は相続登記の義務化とは|2027年3月の期限と10万円の過料を解説で解説しています。

期限に間に合わないときの対処

遺産分割協議がまとまらない、海外在住の相続人と連絡がつかないといった理由で相続登記の3年に間に合いそうにない場合は、「相続人申告登記」で申請義務を果たす方法があります。自分が登記記録上の所有者の相続人であることを、必要な戸籍を添えて登記官に申し出る手続きで、特定の相続人が単独で申出でき、法定相続分の割合を確定させる必要もなく、登録免許税もかかりません(法務省「相続人申告登記について」)。

ただし、これで果たせるのは基本的な申請義務までです。その後に遺産分割が成立した場合は、成立の日から3年以内に所有権移転登記を別途申請する義務が残ります。また相続人申告登記をしても名義は移らないため、その状態では売却できません。過料を避けるための応急処置と考えてください。一方、税制上の特例の期限は原則として延長できません。この2つが近づいている場合は、売却期間が読みにくい仲介ではなく、期日を確定させやすい買取を検討する判断もあります。

印鑑証明書の代わりになる書類|署名証明と在留証明

必要になるのは主に署名証明と在留証明の2種類で、どちらも日本の在外公館(大使館・総領事館)で取得します。日本の市区町村では発行できないため、現地で動く必要があります。

署名証明(サイン証明)とは|形式1と形式2の違い

署名証明は、申請者本人が領事の面前で署名(および拇印)したことを証明する書類で、印鑑証明書の代わりになります。証明の方法には、在外公館の証明書と申請者が持参した書類を綴り合わせて割印を押す形式(形式1)と、申請者の署名だけを単独で証明する形式(形式2)があります(外務省「申請手続きガイド 1 証明できる書類」)。

相続手続きで使うのは原則として形式1です。遺産分割協議書や委任状そのものと証明書が物理的に一体になっているため、「この書類にこの人が署名した」ことを証明できます。形式2は署名の見本を証明するだけでどの書類に対する署名かを示せず、相続登記の添付書面として受け付けられないことがあります。どちらが必要かは事前に司法書士に確認してください。

重要なのは、形式1で証明を受けるには署名する書類そのものを在外公館に持ち込む必要がある点です。日本から遺産分割協議書の原本を送ってもらい、それを持って窓口に行き、領事の前で署名する、という順序になります。日本側で署名まで済ませてしまうと、この手順が踏めません。

在留証明とは|住民票の代わりになる書類

在留証明は、海外のどこに住所を定めて住んでいるかを証明する書類で、日本の住民票に相当します。相続登記では、不動産を取得する相続人の住所を証明する書面が必要になるため、住民票が取れない海外在住者はこれを使います。

取得には一定の要件があり、一般に現地にすでに住所を定めて一定期間居住していることや、その住所を証明する現地の資料(滞在許可証、運転免許証、公共料金の請求書など)の提示が求められます。転居して間もない場合は発給されないことがあるため、早めに管轄の在外公館に確認しておくと安心です。なお在外公館では、窓口申請に加えてオンライン申請の受付や電子化した証明書(e-証明書)の発給も進んでいます。取り扱いは公館ごとに異なるので、自分の管轄がどの方式に対応しているかを事前に調べてください(外務省「在外公館における証明」)。

取得方法と、取り直しを避けるための注意点

署名証明も在留証明も、原則として本人が在外公館の窓口に出向いて申請します。ここで実務的なハードルになるのが距離と時間です。

  • 管轄の在外公館が遠く、片道数百キロ・1泊が必要になる地域がある
  • 窓口が平日日中のみで、現地の仕事を休む必要がある
  • 予約制の公館では、希望日にすぐ取れないことがある
  • 手数料は現地通貨で支払うのが一般的で、公館ごとに金額が異なる
  • 署名証明は必要な通数を1回でまとめて取っておかないと、追加で出直しになる

最後の点は特に重要です。相続登記用、売却の委任状用、金融機関の手続き用など、署名証明が必要になる場面は複数あります。日本側の司法書士や不動産会社に「署名証明が何通必要か」を先に洗い出してもらい、1回の訪問でまとめて確保しましょう。

現地の公証人による署名証明が使えるケース

在外公館まで出向くのが現実的でない場合、居住国の公証人(Notary Public)による署名証明が、在外公館の署名証明に代えて使える場合があります。法務省も、たとえばオーストラリア在住の日本人について、オーストラリアの公証人または治安判事がStatutory Declarationの形式で作成した署名証明を、日本国総領事館が行う署名証明に代えることができる旨を示しています(前掲・法務省の取扱い)。

ただし、これは国や書式によって取扱いが異なる論点で、どこでも当然に認められるわけではありません。外国語で作成された証明書には日本語訳の添付を求められるのが通常です。検討する場合は必ず事前に管轄の法務局や司法書士に、その国・その書式で受け付けられるかを確認してください。確認せずに取得すると、費用と時間をかけたうえで受理されない結果になりかねません。

売却代金の10.21%が引かれる「非居住者の源泉徴収」

海外在住の相続人が売主になると、日本在住の場合には起こらない「決済時の源泉徴収」が発生します。仕組みを理解していないと、決済当日の入金額が想定より少なくてトラブルになります。

なぜ買主が源泉徴収するのか

非居住者は日本国内で生じた所得(国内源泉所得)についてのみ日本で課税されます。国内にある不動産を売った利益もこれに含まれ、譲渡所得として課税され、原則として確定申告が必要です(国税庁 No.1932 海外勤務中に不動産を売却した場合)。問題は、売主が海外にいるため売却後に税金を回収しづらいことです。そこで代金を支払う買主の側に源泉徴収義務を課し、支払いの時点で税金の一部を先に押さえる仕組みが取られています。税率は10.21%(所得税10%と復興特別所得税0.21%)、納付期限は原則として支払った月の翌月10日で、この義務は法人・個人を問わず、事業をしているかどうかにもかかわらず原則すべての買主に及びます。

源泉徴収されない例外は限られている

例外は1つだけです。土地等の譲渡対価が1億円以下で、かつ、その土地等を自己またはその親族の居住の用に供するために取得した個人が支払うものは、源泉徴収の対象になりません(国税庁 No.2879)。金額と買主の属性・用途の両方を満たす必要があります。

買主 用途 譲渡対価 10.21%の源泉徴収
個人 自己または親族の居住用 1億円以下 不要
個人 自己または親族の居住用 1億円超 必要
個人 投資・賃貸・別荘など居住用以外 金額を問わない 必要
法人(不動産会社の買取を含む) 用途を問わない 金額を問わない 必要

実家をマイホームとして買ってくれる個人に1億円以下で売れた場合だけが例外、と覚えておけば大きく外しません。例外に当たるかどうかは決済当日の入金額を左右するので、買主が決まった段階で不動産会社に確認しておいてください。

引かれた税金は確定申告で精算・還付される

源泉徴収された10.21%は、あくまで前払いです。譲渡所得の計算方法は居住者と同じで、売却した年の翌年に確定申告をして本来の税額と精算し、納めすぎていれば還付を受けられます。申告期間は原則として2月16日から3月15日までです(国税庁 No.1932)。

ここで必ず必要になるのが納税管理人です。国内に住所がない人が日本の税務手続きをする場合、納税管理人を定めて「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を納税地の所轄税務署に提出します(国税庁 No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任)。日本在住であれば親族でも構わず、税理士に依頼することもできます。申告書の提出、還付金の受領、税務署からの書類の受け取りをこの人が代行します。

また、取得費が分かる資料が乏しいと譲渡所得が過大に計算され、還付額が減ります。相続や贈与で取得した土地・建物の取得費は、被相続人が買い入れたときの購入代金や購入手数料などをもとに計算するためです(国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期)。被相続人が実家を買ったときの売買契約書や領収書は、相続の初期段階で探しておいてください。

非居住者の税金|住民税と特例はどうなる

最終的にいくら税金がかかるのかも見ておきます。非居住者だからといって税率が高くなるわけではなく、むしろ住民税の扱いで有利になる場面があります。

譲渡所得の計算と長期・短期の判定

譲渡所得は「譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額」で計算します。税率は所有期間によって変わり、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得です(国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき))。長期は所得税15%・住民税5%、短期は所得税30%・住民税9%で、これに所得税額の2.1%の復興特別所得税が加わります。

相続した実家は短期になりそうに思えますが、通常は長期です。相続で取得した場合は被相続人の取得の時期がそのまま引き継がれ、被相続人がその家を取得した時から数えて判定するためです(国税庁 No.3270)。親が数十年前に建てた実家なら、相続直後に売っても長期譲渡所得として扱われます。

非居住者に個人住民税はかからない

個人住民税は、賦課期日である1月1日現在の住所地の市区町村が課税します。年の途中で海外に転出し、翌年1月1日に国内に住所がなければ、前年の所得について住民税は課されません(横浜市青葉区「海外赴任のため海外転出します。住民税はどうなりますか」)。

したがって、非居住者が長期譲渡所得に該当する不動産を売った場合、負担するのは所得税15%と復興特別所得税を合わせた15.315%が中心で、住民税5%は乗りません。国内在住の相続人が同じ物件を売れば20.315%になるところなので、この差は小さくありません。ただし、居住国側で日本の不動産譲渡益がどう扱われるか(現地での申告義務や外国税額控除の有無)は国ごとに異なります。日本側だけで完結すると考えず、居住国の税務専門家にも必ず確認してください。

空き家の3,000万円特別控除・取得費加算の特例

相続した空き家の売却で使える代表的な特例が2つあります。いずれも要件は物件や相続の事実関係に着目したもので、相続人が海外にいることそのものを理由に除外する規定は置かれていません。ただし適用を受けるには確定申告が必須なので、納税管理人の準備が前提になります。

1つ目が空き家の3,000万円特別控除です。相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または敷地等を、平成28年4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの間に売り、一定の要件に当てはまるときに譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。主な要件は次の6点です。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと(分譲マンションは対象外)
  • 相続開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 譲渡対価の額が1億円以下であること
  • 令和6年1月1日以後の譲渡で、相続人が3人以上のときは控除額の上限が2,000万円になる

令和6年1月1日以後の譲渡については、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに買主が耐震改修工事または家屋の取壊しを行った場合も適用対象に加わりました(国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」)。売主が先に解体しなくてもよくなったため、海外在住で現地の解体業者と交渉するのが難しいケースでは効果が大きい改正です。詳細は相続空き家の3,000万円特別控除とは|要件と期限を解説で整理しています。

2つ目が取得費加算の特例です。相続または遺贈により取得した財産を、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合、納めた相続税額のうち一定額を譲渡資産の取得費に加算できます(国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)。相続税を納めた人だけが対象で、期限は実質的に相続開始から3年10か月です。詳しくは相続税の取得費加算の特例とは|3年10ヶ月の期限と計算方法を解説をご覧ください。

帰国できない・時間がないときの「買取」という選択肢

海外在住のケースは書類の往復に時間がかかります。仲介で買主を探すと売り出しから成約まで数か月、条件によっては1年近くかかることもあり、そのあいだ空き家の管理・固定資産税・光熱費の基本料金が発生し続けます。期限が迫っている、現地の生活を長期間空けられないという場合の現実的な選択肢が買取です。

仲介と買取の違い

仲介は不動産会社に買主を探してもらう方法、買取は不動産会社そのものが買主になる方法です。海外在住の相続人にとって差が出るのは、価格よりもスケジュールの確定しやすさとやり取りの回数です。

比較項目 仲介 買取
買主 一般の個人・法人(探す必要がある) 不動産会社
売却までの期間 買主が見つかるまで不確定 条件が合えば期日を決めやすい
売却価格 市場価格に近づきやすい 仲介より低くなるのが一般的
内覧対応 都度必要(遠隔だと調整が負担) 原則不要
残置物・解体 売主側で対応を求められることが多い 現況のまま引き取ってもらえる場合がある
10.21%の源泉徴収 買主が個人・居住用・1億円以下なら不要 買主が法人のため必ず必要

買取では必ず10.21%が源泉徴収される

見落とされやすいのがこの点です。源泉徴収が不要になる例外は「譲渡対価1億円以下」かつ「買主である個人が自己または親族の居住用に取得する場合」に限られるため、買主が不動産会社という法人である買取では、金額にかかわらず例外に当てはまりません。1,000万円の買取でも、10.21%にあたる約102万円が差し引かれた金額が入金されます。

逆に言えば、仲介でマイホーム目的の個人が1億円以下で買ってくれれば源泉徴収されず、代金の全額を一度に受け取れます。売却代金を相続税の納税にすぐ充てたい場合、この差は資金繰りに直結します。買取と仲介を比較するときは、買取価格と想定成約価格だけでなく「決済日にいくら入金されるか」まで並べて比べてください。

買取が向くケース・向かないケース

買取が向くのは、次のようなケースです。

  • 空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の期限が迫っており、年内の決済を確定させたい
  • 家財がそのまま残っていて、遠隔では片付けの手配が難しい
  • 旧耐震の古家や再建築不可など、一般の買主が住宅ローンを組みにくい物件
  • 長期の渡航や休暇が取れず、内覧対応や複数回の来日を避けたい
  • 近隣からの苦情や管理の負担があり、保有し続けるコストのほうが大きい

反対に、駅近で流通性が高い物件、期限に余裕があり日本側に動ける親族がいる場合は、仲介で時間をかけたほうが手取りが大きくなる可能性があります。判断のためには、まず仲介での想定価格と買取価格の両方を把握することが先決です。売却ナビットの無料一括査定では、物件情報を入力するだけで複数社の見立てをまとめて確認できます。相続人が海外在住である旨も併せてお伝えください。

実務でつまずきやすい4つの落とし穴

最後に、海外在住の相続人が実際につまずきやすいポイントを挙げます。いずれも日本国内だけで完結するケースの感覚で進めると見落としがちなものです。

遺産分割協議書の作り直しは署名証明の取り直しになる

形式1の署名証明は、証明書と協議書の原本が綴り合わされた一体の書類です。そのため協議書の内容を1か所でも直すと、綴じ込んだ証明ごと無効になり、在外公館に出直して取り直すことになります。相続人が複数国に散らばっていれば、全員分がやり直しです。

これを避けるには、協議書の案文を確定させてから海外に送ることに尽きます。誰がどの不動産を取得するか、代償金の金額と支払方法、売却して分ける(換価分割)のか特定の1人が取得するのか、不動産の表示が登記事項証明書と一致しているか。この4点を司法書士に確認してもらってから原本を送付してください。

郵送と納税期限は逆算してスケジュールを組む

国際郵便で原本をやり取りすると、国と方法にもよりますが片道で1週間前後、往復で2〜3週間を見ておく必要があります。ここに在外公館の予約待ちと本人の休暇調整が加わるので、「協議書を送って署名証明を付けて返送してもらう」だけで1か月を超えることも珍しくありません。原本の送付には追跡可能な方法を使い、送付前に全ページをスキャンして控えを残してください。

問題は、相続税は相続開始から10か月以内に現金で納めるのが原則だという点です。戸籍の収集に2か月、遺産分割の話し合いに2か月かかれば残りは半年で、そこから相続登記と売却活動を始めると納税期限に売却代金が間に合いません。さらに非居住者は決済時に10.21%が差し引かれるため、手元に残る金額も想定より少なくなります。納税資金を売却代金でまかなう計画なら、相続開始から3〜4か月の時点で査定を取り、仲介で間に合うのか買取で決済日を確定させるべきかを判断しておくと、期限直前に選択肢がなくなる事態を避けられます。

共有のまま売ると相続人全員分の書類が必要になる

遺産分割で1人の単独名義にせず、法定相続分どおりの共有で登記して売却するケースがあります。この場合、売買契約も決済も共有者全員が当事者になるため、署名証明・在留証明・委任状が全員分必要になり、1人でも書類が揃わないと決済が止まります。

一方で、源泉徴収は売主ごとの判定です。海外在住の共有者の持分に対応する代金についてのみ10.21%が差し引かれ、日本在住の共有者の持分は通常どおり全額が入金されます。譲渡所得の申告も持分に応じて各自が行います。共有名義の売却で起きやすい問題は相続で共有名義になった不動産の売却方法|同意が得られないときの対処法にまとめています。

納税管理人を決めていないと還付が進まない

源泉徴収された税金を取り戻すには確定申告が必要で、そのためには納税管理人の届出が前提になります。届出をしないまま決済だけ済ませてしまうと、翌年の申告時期になって慌てて人を探すことになり、還付がさらに遅れます。納税管理人は日本在住であれば親族でも構わないので、売買契約を結ぶ段階で誰に頼むかを決めておいてください。あわせて還付金の受取口座も確認しておきましょう。日本国内の金融機関の口座が必要になるのが通常なので、長く使っていない口座が凍結されていないかを事前に確かめておくと安心です。

よくある質問

海外に住んだまま、一度も帰国せずに実家を売ることはできますか?

在外公館で署名証明と在留証明を取得し、遺産分割協議書と売却手続きの委任状を郵送でやり取りできれば、帰国せずに進められる可能性があります。ただし委任の範囲や本人確認の方法は取引の相手方や司法書士の判断によるため、着手前に「帰国できない前提で進めたい」と伝え、必要書類と進め方を確認しておくことが重要です。

売却代金の10.21%はいつ戻ってきますか?

源泉徴収された税額は、売却した年の翌年の確定申告で精算します。申告期間は原則として2月16日から3月15日までで、納めすぎになっていれば還付されます。申告には納税管理人の届出が前提になるため、決済より前に納税管理人を決めておかないと、還付を受けるタイミングがさらに遅れます。

不動産会社の買取でも10.21%は源泉徴収されますか?

されます。源泉徴収が不要になる例外は、譲渡対価が1億円以下で、かつ買主である個人が自己または親族の居住用として取得する場合に限られます。買主が不動産会社などの法人である買取では、金額にかかわらずこの例外に当てはまらないため、原則どおり10.21%が差し引かれた金額が入金されます。

相続人のうち1人だけが海外にいる場合も手続きは変わりますか?

遺産分割協議には相続人全員の関与が必要なので、1人でも海外にいれば署名証明と在留証明が必要です。一方で源泉徴収は売主ごとの判定になるため、共有のまま売る場合は海外にいる相続人の持分に対応する代金についてのみ10.21%が差し引かれます。日本在住の相続人の持分は通常どおり全額が入金されます。

この記事を書いた人

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