相続した借地権付きの家の売却|地主の承諾料の相場と借地非訟・買取

借地に建つ築年数の経った木造2階建て一戸建ての外観

親から借地に建つ実家を相続したとき、多くの方がまず心配するのが「地主の許可がないと何もできないのでは」という点です。結論から言うと、相続で借地権を受け継ぐこと自体に地主の承諾も承諾料も必要ありません。地主の承諾が要るのは、その借地権を第三者に売るときです。承諾の対価である譲渡承諾料の相場は借地権価格の10%程度で、地主が首を縦に振らない場合は、借地借家法19条の借地非訟という手続きで裁判所に承諾の代わりとなる許可を出してもらえます。この記事では、相続から売却までの順序、費用の内訳、地主が承諾しないときの現実的な選択肢、そして先に建物を壊してしまうと借地権が弱くなるという見落としやすい落とし穴までを整理します。

相続した借地権付きの家を売るまでの全体像

借地権付きの家の売却は、所有権の家を売るのと比べて「地主」という第三者が必ず絡みます。ただし地主が関わるタイミングは決まっていて、順序さえ間違えなければ手続き自体は整理できます。まずは全体像を押さえてください。

相続で借地権を受け継ぐのに地主の承諾も承諾料もいらない

借地権は財産権であり、相続が始まった瞬間に相続人へ当然に移ります。民法896条は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めており、これを包括承継といいます。包括承継は当事者の合意による「譲渡」ではないため、賃借権の譲渡に地主の承諾を求める民法612条の適用対象になりません。

したがって、地主から「名義が変わるので名義変更料を払ってほしい」と言われても、相続の場面では支払い義務がないのが原則です。相場として語られる譲渡承諾料は、あくまで第三者へ売るときの話です。

ただし、法律上の義務がないことと、地主との関係を良好に保つことは別問題です。相続が起きたことは早めに書面で知らせ、次の3点だけは確認しておきましょう。

  • 地代の金額と振込先、支払期日に変更がないか
  • 契約期間があと何年残っているか、直近の更新はいつだったか
  • 契約書に「譲渡・増改築には承諾を要する」といった特約があるか

「売る」段階で初めて地主の承諾が必要になる

相続人が借地権付きの建物を第三者に売ると、それは借地権の譲渡にあたります。ここで地主の承諾が必要になり、実務では譲渡承諾料(名義書換料)の支払いとセットで承諾書を交わします。承諾を得ずに売買を進めると契約違反となり、最悪の場合は借地契約を解除され、建物を取り壊して土地を返す事態になりかねません。買主にとっても致命的なので、承諾の見通しが立たない物件は仲介でもまず動きません。

つまり、相続した借地権付きの家の売却では「地主の承諾を取れるかどうか」が最初の関門です。ここが読めないまま売り出すと、買主が決まってから交渉が壊れるという最悪の順序になります。地主の意向は、売り出す前に打診しておくのが鉄則です。

売却完了までのスケジュールの目安

相続の発生から引き渡しまで、標準的な流れと期間の目安は次のとおりです。地主との交渉が順調でも、建物の相続登記に1〜2ヶ月かかるため、思い立ってすぐ売れるものではありません。

段階 やること 期間の目安
1. 権利関係の確認 借地契約書・建物の登記事項証明書・公図の取得、借地権の種類の判定 2週間〜1ヶ月
2. 遺産分割と相続登記 遺産分割協議書の作成、建物の所有権移転登記 1〜2ヶ月
3. 地主への打診 譲渡の意向を伝え、承諾の可否と承諾料の水準をすり合わせる 2週間〜2ヶ月
4. 売却活動・価格交渉 仲介での売り出し、または買取業者の査定と条件提示 買取は1〜2週間/仲介は3〜6ヶ月
5. 承諾書の取得と決済 地主の譲渡承諾書に署名・押印をもらい、承諾料を支払って引き渡し 2週間〜1ヶ月
(地主が承諾しない場合) 借地非訟の申立てから決定まで おおむね7〜12ヶ月を追加

売り出す前に確認したい4つのこと

借地権は一つひとつ条件が違い、同じ「借地」でも売りやすさがまるで変わります。査定を依頼する前に、次の4点だけは自分で押さえておくと、話が早く進みます。

旧法借地権か、普通借地権か、定期借地権か

借地権は、契約した時期によって適用される法律が違います。1992年(平成4年)8月1日に借地借家法が施行され、それ以前に契約された借地権には旧借地法がそのまま適用され続けます。売却価格に直結するのは「更新できるかどうか」で、旧法借地権と普通借地権は更新が前提、定期借地権は更新がなく期間満了で土地を返す仕組みです。条文はe-Gov法令検索の借地借家法で確認できます。

種類 契約時期 存続期間 更新
旧法借地権 1992年7月31日以前 木造など非堅固建物は30年、鉄筋コンクリート造など堅固建物は60年 あり(更新後は非堅固20年・堅固30年)
普通借地権 1992年8月1日以降 建物の構造を問わず一律30年 あり(初回更新は20年、2回目以降は10年)
一般定期借地権 1992年8月1日以降 50年以上 なし(期間満了で建物を取り壊して返還)

契約書が残っていなくても、建物の登記事項証明書に記載された新築年月日が1992年7月より前なら旧法借地権である可能性が高い、という当たりの付け方はできます。相続した実家が昭和築であれば、まず旧法借地権を前提に考えて差し支えありません。

建物の登記が被相続人名義のままでは売れない

借地権そのものは登記されていないケースが大半で、実務上は借地上の建物の登記が権利を支える柱になっています。この建物が亡くなった親の名義のままだと、買主への所有権移転ができないため決済に進めません。

加えて、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。法務省「相続登記の申請義務化について」によれば、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。この義務は施行日より前に発生した相続にも及ぶため、何年も前に相続した借地上の建物も対象です。詳しくは相続登記の義務化とは|2027年3月の期限と10万円の過料を解説で整理しています。

売却を決めているなら、相続登記は「いずれやること」ではなく「売却の前提条件」です。遺産分割がまとまらず登記まで進めない場合は、期限だけでも守れる相続人申告登記という簡易な手続きもあります。

借地契約書が見つからないときの調べ方

先代から続く借地では、契約書が失われていることが珍しくありません。それでも借地権が消えるわけではないので、次の順で足元を固めます。

  1. 建物の登記事項証明書を取り、新築年月日と所有者名義を確認する
  2. 通帳やクレジット明細で地代の振込履歴を遡り、支払額と支払先を特定する
  3. 固定資産税の納税通知書を見て、建物だけに課税され土地に課税されていないことを確認する
  4. 地主に連絡し、契約書の控えや過去の更新時の書面が残っていないか尋ねる

地代を継続して払ってきた事実と、借地上に自分(被相続人)名義の建物が登記されている事実が揃えば、借地権の存在は十分に説明できます。逆に、地代の支払いが長く止まっていた場合は、契約が解除されていないかを最優先で確認してください。

地代の滞納や無断増改築がないか

地主が譲渡を渋る典型的な理由が、過去のトラブルです。地代の滞納、更新料の未払い、承諾を取らずに行った増改築や建て替え——こうした事情があると、地主は「この機会に契約を終わらせたい」と考えます。心当たりがあるなら、売却交渉に入る前に精算・謝罪を済ませておくほうが、結果的に承諾料も安く収まります。

また、亡くなった親が高齢で、地代を払い忘れていたまま数ヶ月が経っているケースもあります。相続人が気づかないうちに滞納が積み上がると、それだけで承諾交渉の主導権を失います。相続に気づいた時点で地代の支払い状況を確認するのが、実は最初にやるべきことです。

地主に払う譲渡承諾料はいくら?費用の内訳

借地権付きの家の売却で最も金額が読みにくいのが、地主に支払う譲渡承諾料です。法律で決まった金額はなく、あくまで交渉ですが、実務で使われる目安ははっきりしています。

譲渡承諾料の相場は借地権価格の10%程度

第三者に借地権を譲渡する際の承諾料(名義書換料)は、借地権価格の10%程度が一つの目安とされています。借地権価格が2,000万円なら200万円前後という計算です。この水準は法律上の根拠があるものではなく、借地非訟の裁判例で承諾に代わる許可の条件として命じられてきた金額が、そのまま任意交渉の相場として定着したものです。

地主が相場を大きく超える金額を提示してくることもあります。その場合は、後述する借地非訟という手段があることを念頭に置いて交渉してください。裁判所が決める金額はおおむね相場水準に収まるため、法外な要求は交渉材料として弱いというのが実情です。

借地権価格は「更地価格×借地権割合」で見当をつける

承諾料の基準になる借地権価格は、その土地が所有権だった場合の価格(更地価格)に借地権割合を掛けて概算します。借地権割合は国税庁が地域ごとに定めていて、路線価図にA〜Gの記号で表示されます。AからGはそれぞれ90%から30%まで10%刻みで対応しています。

詳しい評価の考え方は国税庁「No.4611 借地権の評価」に説明があり、借地権の価額は自用地としての価額に借地権割合を乗じて計算するとされています。借地権割合は路線価図・評価倍率表で誰でも確認できるので、交渉の前に自分の土地の記号を調べておくと話が具体的になります。

  • 更地価格3,000万円・借地権割合60%(記号D)→ 借地権価格の目安は1,800万円
  • その10%にあたる180万円前後が譲渡承諾料の目安になる

ただし、路線価は相続税の計算のための価格であり、実際の売買価格とは一致しません。あくまで交渉のための当たりを付ける道具と考えてください。

建替承諾料・条件変更承諾料が上乗せされるケース

買主が古家を建て替える前提で購入する場合、譲渡承諾料に加えて建替承諾料が発生します。相場は更地価格の3〜5%程度で、更地価格3,000万円なら90万〜150万円が目安です。さらに、木造から鉄筋コンクリート造のように建物の構造を変える場合は条件変更承諾料が必要になり、こちらは更地価格の10%程度が目安とされています。

相続した古家をそのまま使う買主はまれなので、実際には譲渡承諾料と建替承諾料をセットで求められることが多くなります。売主・買主のどちらが負担するかは交渉次第ですが、売却価格に織り込まれるため、実質的には売主の手取りが減る形になります。

売却時にかかる費用の一覧

費目 金額の目安 支払先
譲渡承諾料(名義書換料) 借地権価格の10%程度 地主
建替承諾料 更地価格の3〜5%程度 地主
条件変更承諾料 更地価格の10%程度 地主
相続登記の登録免許税 建物の固定資産税評価額の0.4% 国(法務局)
仲介手数料(仲介の場合) 売買価格400万円超なら「売却価格の3%+6万円+消費税」が上限 不動産会社
借地非訟の申立費用(争う場合) 印紙代のほか弁護士費用が別途 裁判所・弁護士

地主が承諾してくれないときの選択肢

「代が変わったのを機に土地を返してほしい」「そもそも売られるのは困る」——地主が譲渡を拒むのは珍しいことではありません。ここで諦める必要はなく、法律は借地人に逃げ道を用意しています。

借地非訟なら裁判所が承諾に代わる許可を出せる

借地借家法19条1項は、借地権者が借地権を譲渡しようとする場合に、地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾が得られないときは、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与えることができると定めています。この手続きが借地非訟です。通常の訴訟と違い、非訟事件として裁判所が後見的に関与し、話し合いに近い形で進みます。

実務では、裁判所が承諾に代わる許可を出す際、譲渡承諾料に相当する金銭の支払いを条件として付けるのが一般的です。つまり「無償で通る抜け道」ではなく、「相場の承諾料で決着させる仕組み」と理解するのが正確です。地主が法外な承諾料を求めてきたときの、事実上の上限として機能します。

地主の介入権で、地主が自ら買い取ると言えるルールもある

借地非訟を申し立てると、地主の側には対抗手段があります。借地借家法19条3項の介入権で、地主が「第三者に売るくらいなら自分が買い取る」と申し立てられる制度です。この場合、裁判所は相当の対価を定めたうえで、借地権を地主に譲渡すべき旨を命じることができます。

売主にとっては、想定していた買主に売れなくなる一方、地主が適正価格で買い取ってくれるなら現金化という目的は達せられます。介入権が行使されると手続きはむしろ早く収束することもあるため、必ずしも悪い結果とは限りません。

借地非訟にかかる費用と期間

借地非訟は制度としては使えますが、時間と費用の負担は小さくありません。売却を急ぐ事情がある場合は、コストに見合うかを冷静に判断する必要があります。

項目 目安 備考
申立手数料(印紙代) 目的物の価格1,000万円で約2万円、5,000万円で約6万8,000円、1億円で約12万8,000円 ほかに郵便切手代が数千円程度
鑑定委員会の費用 当事者の負担なし 裁判所が選任し、国が負担する
弁護士費用 総額100万円前後になることが多い 事務所ごとに料金体系が異なる
期間 おおむね7〜12ヶ月 書面交換2〜4ヶ月、鑑定委員会2〜3ヶ月などの内訳

1年近い時間と100万円規模の弁護士費用を投じても、最終的に払う承諾料が相場から大きく下がるわけではありません。借地非訟は「地主が不合理な要求を続ける場合の最終手段」であって、最初から狙って使う手続きではない、というのが実務感覚です。

借地非訟に持ち込まずに済ませる進め方

実際には、次のような順序を踏むと承諾が得られることが多くあります。

  • 売却理由(遠方に住んでいる、維持できない、相続人で分ける必要がある)を正直に説明する
  • 買主候補の属性や資金計画をあらかじめ地主に伝え、地代の取りっぱぐれがないことを示す
  • 地主にも底地の売却や借地権との等価交換という選択肢があることを提案する
  • 借地権と底地をセットで第三者に売れば所有権として高く売れるため、地主の取り分も増えることを説明する

地主が譲渡を拒む本音は「知らない相手に土地を貸したくない」「地代が滞るのが怖い」という不安であることが多く、そこを解消できれば話は動きます。借地権と底地を同時に売却する形なら、双方が所有権相当の価格で現金化でき、借地権割合に応じて代金を分けるのが一般的です。

売却先は3つ|地主・仲介・買取の比較

相続した借地権付きの家を手放す先は、大きく3つあります。それぞれ価格・スピード・地主交渉の負担が違うので、何を優先するかで選び方が変わります。

地主に買い取ってもらう

最もシンプルなのが、地主に借地権を買ってもらう方法です。地主にとっては、借地権を回収すれば土地が完全な所有権に戻り、資産価値が大きく上がるメリットがあります。譲渡承諾料も不要になり、承諾交渉そのものが消えます。

価格の目安は更地価格の50%程度と言われますが、これは相対取引なので明確な相場はなく、土地の評価額に借地権割合を掛けた金額が交渉の出発点になります。ただし、地主にまとまった資金がなければ成立しません。「買ってほしい」と持ちかけて断られること自体は普通で、その場合は次の選択肢に進みます。

仲介で第三者に売る

不動産会社の仲介で一般の買主を探す方法です。うまく買主が見つかれば最も高く売れる可能性がありますが、借地権付き建物には固有のハードルがあります。

最大の壁が住宅ローンです。借地上の建物は、地代の不払いなどで借地契約が解除されると建物を撤去しなければならず、抵当権を設定しても担保としての意味が薄れます。そのため金融機関は融資に慎重で、多くの場合、地主が「地代の滞納などで契約を解除する際は事前に金融機関へ通知する」といった内容の承諾書に署名することを融資条件にします。地主がこの書面に協力してくれるかどうかが、買主のローン成立を左右します。

結果として、借地権付きの家は買主層が狭く、売り出してから3〜6ヶ月では決まらないことも珍しくありません。相続税の納付期限や、次に触れる特例の期限が迫っているときは、時間切れのリスクを見ておく必要があります。

買取業者に売る

借地権や共有持分といった権利関係が複雑な不動産を専門に扱う買取業者に、直接売る方法です。業者は自分たちで地主と交渉し、承諾料の負担や借地非訟のリスクも織り込んだうえで価格を提示するため、売主が地主と直接やり合う必要がありません。

仲介より価格は下がりますが、次のような事情がある場合には現実的な選択肢になります。

  • 相続人が遠方に住んでいて、地主との交渉に時間を割けない
  • 地主との関係が既にこじれていて、自分では話ができない
  • 取得費加算の特例など、期限のある制度を使うために早く売り切りたい
  • 建物が古すぎて、仲介では買主が現れる見込みが薄い

3ルートの比較表

比較項目 地主に売る 仲介で第三者に売る 買取業者に売る
価格の水準 更地価格の50%程度が目安 3つの中で最も高くなりやすい 仲介より低くなる
譲渡承諾料 不要 必要(借地権価格の10%程度) 業者が負担・交渉するのが一般的
地主との交渉 相手が地主本人 売主が自分で行う 業者が代わりに行う
期間の目安 地主の資金次第 3〜6ヶ月 1週間〜1ヶ月程度
向いているケース 地主に買う意思と資金がある 時間に余裕があり高値を狙いたい 期限がある・交渉を任せたい

売ったときの税金と、使える特例

借地権は税務上も「土地の上に存する権利」として扱われ、売却益には譲渡所得として所得税・住民税がかかります。相続で取得したからといって非課税になるわけではありません。

譲渡所得の計算と税率

譲渡所得は「売却価格 − 取得費 − 譲渡費用」で計算します。税率は売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで分かれ、5年超なら長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得です。

ここで重要なのが、相続で取得した資産は被相続人の取得時期をそのまま引き継ぐという点です。国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」のとおり、被相続人が取得した日から数えて所有期間を判定します。先代から何十年も借りている土地なら、相続直後に売ってもほぼ確実に長期譲渡所得になります。税額の計算方法は国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」で確認できます。

取得費についても被相続人の取得費を引き継ぎます。ただし、先代が借地権を取得したときの権利金の資料が残っていないことが多く、その場合は売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費を使わざるを得ません。取得費が小さくなるほど課税される利益は膨らむので、古い書類は捨てずに探してください。

譲渡承諾料は譲渡費用に入れられる

地主に払った譲渡承諾料は、税金の計算上、譲渡費用として売却価格から差し引けます。国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」は、譲渡費用の例として「借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など」を明示しています。

一方で、修繕費や固定資産税など資産の維持管理のためにかかった費用は譲渡費用になりません。数百万円になることもある承諾料を計上し忘れると税額が大きく変わるので、承諾書と振込記録は必ず保管しておいてください。

相続空き家の3,000万円特別控除も検討できる

被相続人が一人で住んでいた古い家を相続して売る場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」では、対象となる「被相続人居住用家屋の敷地等」を、相続開始の直前にその家屋の敷地に使われていた土地または土地の上に存する権利と定義しています。借地権も土地の上に存する権利にあたるため、定義のうえでは排除されていません。

ただし、この特例は要件が非常に細かく、次のようなハードルをすべて越える必要があります。

  • 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること
  • 区分所有建物として登記された建物でないこと
  • 相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 2016年4月1日から2027年12月31日までの売却であること(相続人が3人以上の場合、控除額は2,000万円)

借地権の場合は、そもそも建物と敷地利用権をどう譲渡するかで扱いが変わり得ます。適用できるかどうかは金額へのインパクトが大きいので、必ず事前に税務署か税理士に確認してください。制度の全体像は相続空き家の3,000万円特別控除とは|要件と期限を解説で詳しく扱っています。

取得費加算の特例は3年10ヶ月が期限

相続税を納めた人が、相続した財産を一定期間内に売った場合、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算できる特例があります。国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」では、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡することが要件とされています。相続税の申告期限が相続開始から10ヶ月なので、合わせて「3年10ヶ月」と呼ばれます。

借地権の売却は地主との交渉が入るぶん時間がかかるため、この期限は思ったより早く迫ります。相続税を納めていて特例を使いたいなら、逆算して動き出す時期を決めてください。詳しくは相続税の取得費加算の特例とは|3年10ヶ月の期限と計算方法を解説で解説しています。

実際に多い4つの落とし穴

ここからは、借地権付きの家の相続で実際につまずきやすい点をまとめます。どれも「良かれと思ってやったことが裏目に出る」タイプなので、動く前に目を通してください。

先に古家を解体すると借地権が弱くなる

「古い家が建っていると売りにくいから、先に更地にしておこう」——これは借地では最もやってはいけない判断です。借地権は原則として借地上の建物の登記によって第三者に対抗できる仕組みになっており、建物がなくなると、その対抗力の土台が失われます。

借地借家法10条2項は救済策を設けていて、建物を特定するために必要な事項、滅失の日、新たに建物を築造する旨を土地の見やすい場所に掲示すれば対抗力が維持されるとしています。ただしこれは滅失の日から2年間の限定で、2年を過ぎた後は、その前に建物を新築して登記していた場合に限られます。つまり、売るために解体して更地のまま2年放置すると、対抗力を失うリスクを負うことになります。

そもそも借地上の建物を解体するには、契約上、地主の承諾が必要とされていることが大半です。解体費用の考え方は空き家の解体費用が払えない場合の売却方法|解体せず買取してもらう選択肢にまとめていますが、借地の場合は費用以前に「壊してよいか」から確認してください。

建物がないと契約の更新を請求できない

解体のリスクはもう一つあります。借地借家法5条1項は、借地権の存続期間が満了する場合に借地権者が更新を請求したときは、建物がある場合に限り従前と同一の条件で契約が更新されたものとみなす、と定めています。裏を返せば、更新のタイミングで建物が存在しなければ、更新を請求できません。

契約期間の残りが少ない借地で建物を壊してしまうと、更新できずに借地権そのものを失う展開もあり得ます。残存期間が10年を切っているような借地では、解体は絶対に地主・専門家と相談してから判断してください。

定期借地権は残り年数で値段が決まる

相続した借地が定期借地権だった場合、考え方が根本的に変わります。定期借地権には更新がなく、期間が満了すれば建物を取り壊して土地を返すのが前提です。そのため残存期間がそのまま資産価値になり、年を追うごとに価値が減っていきます。

残存期間が長いうちは通常の売却活動でも買い手が付きますが、残りが短くなるほど価格交渉で不利になり、売却期間も長引く傾向があります。残存20年を切ると住宅ローンの制約も重なって売却は一気に難しくなります。定期借地権を相続したなら、「いつか売る」ではなく「早く売る」ほうが有利になりやすい、という前提で計画を立ててください。

相続人が複数いると全員の同意が必要

借地権付きの建物を相続人が共同で相続すると、建物は共有、借地権は準共有の状態になります。この状態で第三者に売るには、共有者全員の同意が必要です。誰か一人でも反対すれば売却は成立しませんし、地主に譲渡の承諾を求める前提すら整いません。

特に、相続人の一人が「先祖代々の土地だから手放したくない」と考えているケースはこじれます。売却を前提にするなら、遺産分割の段階で代表者一人の単独名義にまとめてしまうほうが、その後の地主交渉も登記手続きもはるかに軽くなります。共有のまま進めたときの詰まり方は相続で共有名義になった不動産の売却方法|同意が得られないときの対処法で詳しく解説しています。

借地権付きの家は、地主・相続人・買主・金融機関という4者の都合が噛み合って初めて売れます。どれか一つでも読み違えると数ヶ月単位で止まるので、まずは自分の借地がどの種類で、地主がどう考えているかを早めに把握することから始めてください。

よくある質問

借地権を相続したら、地主に名義変更料を払う必要がありますか?

相続は民法896条による包括承継で、賃借権の譲渡にはあたらないため、地主の承諾も名義変更料も法律上は必要ありません。地主から名義変更料を求められても、支払い義務はないのが原則です。ただし相続が起きたこと自体は早めに書面で伝え、地代の振込先や契約内容を確認しておくと、その後の売却交渉がスムーズになります。

地主に無断で借地権付きの家を売ったらどうなりますか?

第三者への借地権の譲渡には地主の承諾が必要で、無断で譲渡すると契約違反として借地契約を解除されるおそれがあります。解除されると建物を取り壊して土地を返さなければならず、買主にも重大な損害が出ます。承諾が得られない場合は、無断で進めるのではなく借地借家法19条の借地非訟(裁判所の許可)を使ってください。

借地権付きの建物でも相続登記は必要ですか?

必要です。借地権そのものは登記されていないことが多い一方、借地上の建物は被相続人名義で登記されているのが通常で、その建物について相続登記の申請義務がかかります。法務省によれば、不動産の取得を知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります。登記が済んでいないと売却の決済もできません。

借地契約書が見つかりませんが、売却できますか?

売却できないわけではありません。建物の登記事項証明書で建築時期と所有者を確認し、地代の振込履歴や領収書で契約の存在と地代額を裏づけ、地主に契約書の控えがないかを確認する、という順で進めます。旧法か新法かは建物の新築時期がおおよその手がかりになります。書類が揃わない状態でも現況のまま買い取る業者はあります。

この記事を書いた人

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