相続した不動産を1人が引き継ぎ、その人が他の相続人に現金(代償金)を払って精算するのが代償分割です。実家や収益物件を売らずに残せる一方、関門は「代償金をいくらにするか」と「その現金をどう用意するか」の2点に集約されます。結論を先に書くと、代償金の額は法律で決まっておらず話し合いで決めるため、不動産をどの価格で評価するかによって数百万円単位で変わります。現金が足りないときの選択肢は、分割払い・代物弁済・借入・生命保険・換価分割への切り替え・不動産の売却の6つです。相続税の申告期限である10か月に間に合わせる必要があるなら、売却のなかでも買取が現実的です。代償金の決め方、税金の扱い、現金がないときの対処法、売るときの落とし穴までを国税庁・法務省などの公表情報をもとに整理します。
代償分割とは?現物分割・換価分割・共有分割との違い
国税庁は代償分割を「共同相続人などのうちの1人または数人が相続などにより財産を現物で取得し、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担する分割の方法」と説明しています(国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算)。現物を分けることが難しい場合の方法という位置づけです。
代償金は「現物を多く取った人が負う債務」
仕組みを数字で見ます。相続人が長男・長女の2人、遺産は実家(評価額3,000万円)と預金1,000万円だとします。法定相続分は2分の1ずつなので、1人あたりの取り分は2,000万円です。長男が実家を取得すると3,000万円分を受け取ることになり、取り分より1,000万円多くなります。この差額1,000万円を長男が長女に支払う——これが代償金です。
押さえておきたいのは、代償金が「遺産から出るお金」ではなく「現物を取得した相続人が自分の財産から支払う債務」だという点です。上の例で預金1,000万円を長女が取得すれば、長男はなお1,000万円を自分の貯金や借入で用意します。ここを勘違いすると、支払う段階で「現金がない」という壁に当たります。
4つの分割方法の違いを表で比較
遺産分割の方法は代償分割のほかに3つあり、不動産の行き先が大きく異なります。
| 分割方法 | やり方 | 不動産の行き先 | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|---|---|
| 現物分割 | 財産ごとに取得者を決める | 相続人の1人が単独取得 | 手続きが単純 | 取り分が不均等になる |
| 代償分割 | 現物を取得した人が代償金を払う | 相続人の1人が単独取得 | 不動産を残せる | 現金が必要。評価額で揉めやすい |
| 換価分割 | 売って現金化する | 第三者へ売却 | 公平に分けられる | 不動産は残らない |
| 共有分割 | 持分で共有する | 相続人全員の共有 | その場は決めやすい | 売却に全員の同意が必要。次の相続で細分化する |
代償分割と最も比較されるのが換価分割です。売って分けるか、1人が持って現金で精算するかの違いで、後述のとおり税金の扱いも変わります(換価分割は単独名義と共有名義どっちが得?)。共有分割を選んでしまった場合の売り方は相続で共有名義になった不動産の売却方法を参照してください。
代償分割が向くケース・向かないケース
代償分割が力を発揮するのは、その不動産に「使い続ける理由」がある場合です。
- 相続人の1人がその家に住み続けている
- 賃貸中の収益物件で家賃収入を残したい
- 店舗や工場など事業に使っている
- 分筆すると使いにくい土地になってしまう
逆に、次のケースでは代償分割は問題の先送りになります。
- 取得する相続人に払える現金も借入余力もない
- 評価額について相続人の間で認識が大きく違う
- 誰も使わない空き家で維持費だけがかかる
最後のケースは特に注意が必要です。誰も使わない不動産を1人に背負わせると、代償金と維持費の両方を抱えます。放置して管理不全空家等・特定空家等に指定され市町村の勧告を受けると、その土地は固定資産税の住宅用地特例の対象から外れます(国土交通省 空き家対策特設サイト、特定空き家・管理不全空き家の固定資産税6倍とは)。
代償金はいくら?4つの評価基準と計算方法
代償金の計算式は法律に規定されていません。相続人全員が合意すればいくらでもよいのが原則です。ただし「合意すればよい」とは、不動産をいくらと見るかで金額が動くということでもあります。最初に「どの価格を基準にするか」を揃えておくのが、揉めない最大のコツです。
時価・相続税評価額・固定資産税評価額・公示地価
土地には複数の公的な価格があります。国土交通省の主な公的土地評価一覧によれば、相続税評価は平成4年以降、地価公示の水準の8割程度、固定資産税評価は平成6年以降、7割程度とされています。どの価格を使うかで2〜3割の差がつきます。
| 価格の種類 | 何の価格か | 地価公示に対する水準 | 代償金の算定に使うと |
|---|---|---|---|
| 実勢価格(時価) | 実際に売買される価格 | 相場そのもの | 受け取る側に有利 |
| 地価公示・基準地価 | 国・都道府県が公表する標準地の価格 | 基準(100%) | 客観的な目安になる |
| 相続税評価額(路線価など) | 相続税・贈与税の計算に使う価格 | 8割程度 | 申告額と揃えられる |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税の計算に使う価格 | 7割程度 | 最も低く、支払う側に有利 |
遺産分割は本来「分割時の時価」で公平を図るのが基本です。国税庁も代償財産の価額の決め方によって特例的な計算方法を認めており(No.4173、相続税法基本通達 第11条の2関係)、時価で評価したかどうかが分かれ目です。
代償金の計算式と、400万円差がつく具体例
基本の計算式はシンプルです。
- 代償金=(その相続人が取得した財産の評価額)−(その相続人の取り分)
実例で差を見ます。遺産は実家(実勢価格4,000万円/相続税評価額3,200万円)と預金600万円、相続人は長男・長女の2人です。
| 評価の基準 | 遺産総額 | 1人の取り分 | 長男の取得額 | 長女の取得額(預金) | 代償金 |
|---|---|---|---|---|---|
| 実勢価格で評価 | 4,600万円 | 2,300万円 | 4,000万円 | 600万円 | 1,700万円 |
| 相続税評価額で評価 | 3,800万円 | 1,900万円 | 3,200万円 | 600万円 | 1,300万円 |
同じ遺産、同じ法定相続分でも代償金は400万円違います。実務では複数社の査定額の幅を示して中間で合意する、あるいは鑑定評価で一本化する進め方をとります。
評価で揉めたときの決着のつけ方
評価額で折り合わない場合、段階を追って手段を変えていきます。
- 複数の不動産会社の査定を取る:無料で相場の幅が見えます。必ず複数社に。
- 不動産鑑定士の鑑定評価を取る:有料ですが、調停や裁判で証拠として扱われます。
- 家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てる:裁判所によれば、調停は裁判官と調停委員で組織された調停委員会が中立・公平な立場で双方の話を聞き、解決案を示して進めるもので、申立先は相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所です(裁判所 遺産分割調停)。
ただし調停は解決まで1年以上かかることもあります。その間に相続税の申告期限(10か月)は過ぎてしまうため、揉めれば税金の面でも不利になります。
代償分割の税金|相続税・贈与税・譲渡所得
代償分割は現金が動くため贈与税の不安が生まれやすい方法です。結論としては、正しく手続きすれば贈与税はかかりません。かかるのは相続税で、その計算方法が決まっています。
払った側は控除、受け取った側は加算
国税庁 No.4173 は、代償分割が行われた場合の相続税の課税価格を次のように計算するとしています。
- 代償財産を交付した人:相続などにより取得した現物の財産の価額 − 交付した代償財産の価額
- 代償財産の交付を受けた人:相続などにより取得した現物の財産の価額 + 交付を受けた代償財産の価額
つまり代償金のやり取りで相続税の総額が増えるのではなく、負担の配分が変わるだけです。長男が1,000万円払えば長男の課税価格は1,000万円減り、長女は1,000万円増えます。
見落とされやすいのが受け取った側です。現物はもらっていないのに、現金が相続税の課税価格に加算されます。なお遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら相続税の申告自体が不要です(国税庁 No.4152 相続税の計算)。
協議書に「代償分割」と書いていないと危ない
代償金の支払いを税務上どう見るかは協議書の書き方で決まります。国税庁の質疑応答事例は、換価のための便宜として共同相続人のうち1人の名義に相続登記した場合でも、その代金が「分割に関する協議書の内容に従って」実際に分配されるときは贈与税の課税が問題となることはない、としています(国税庁 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税)。課税上の扱いの根拠になるのは協議書の記載だということです。
代償分割も同じで、協議書に「長男は本件不動産を取得する代償として、長女に対し金1,000万円を支払う」旨を明記します。「長男が実家を取得する」とだけ書き、後から現金を別途送金すると、その送金が別の贈与と見られる余地が生まれます。
- 誰がどの不動産を取得するか(登記事項証明書どおりに特定)
- 誰が誰にいくら支払うか(「代償として」の文言を入れる)
- 支払期限と支払方法(一括か分割か)
- 分割払いなら回数・各回の金額・期限を守れなかったときの扱い
- 原資が売却代金ならその旨と、決済日に連動させた支払期限
代償金の代わりに不動産を渡すと譲渡所得税がかかる
現金が用意できないとき、別に持つ不動産を渡す方法(代物弁済)も検討されます。合意があれば可能ですが、国税庁は、土地や建物を債務の弁済のために引き渡した場合、その土地や建物の時価が譲渡所得の収入金額になるとしています(国税庁 No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額)。売っていないのに売ったものとして扱われ、渡した側に譲渡所得税がかかります。
受け取る側も注意が必要です。国税庁の質疑応答事例では、400万円の債権に対し価額100万円の土地を代物弁済で取得して債権全部を消滅させた場合、その土地の取得費は100万円、差額300万円は貸倒損失とされています(国税庁 代物弁済により取得した土地の取得費)。株式など他の資産を渡す場合も同様に譲渡として扱われます。
代償金を払う現金がないときの6つの選択肢
代償分割が行き詰まる最大の理由は現金です。使える手は6つあり、相続発生前しか使えないものと、後でも使えるものに分かれます。
分割払い・代物弁済・借入・生命保険
| 選択肢 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1. 分割払いにする | 回数・金額・期限を協議書に書く | 長期化すると回収不能リスクが上がる |
| 2. 代物弁済(他の資産で払う) | 別の不動産や株式を渡す | 渡した側に譲渡所得税がかかる |
| 3. 金融機関から借りる | 相続関連・不動産担保ローンを使う | 審査には返済原資が必要 |
| 4. 生命保険で用意する | 被相続人が生前に加入しておく | 相続発生前しか使えない |
| 5. 分割方法そのものを変える | 換価分割や現物分割にする | 相続人全員の再合意が必要 |
| 6. 取得した不動産を売って作る | 売却して代金から払う | 売れるまで支払えない |
4の生命保険は、使えるなら最も摩擦が少ない方法です。死亡保険金は受取人が指定されているため遺産分割の対象にならず、その相続人に直接入ります。相続税では課税対象で、非課税限度額は500万円×法定相続人の数です(国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金)。亡くなってからでは加入できないため、すでに相続が発生している場合の選択肢は1・3・5・6の4つです。
不動産を売って代償金を作る場合の順番
実務でいちばん多いのが6です。順番を間違えると、使えたはずの制度が使えなくなったり債務不履行になったりします。
- 遺産分割協議書を作る:代償分割であること、代償金の額、支払期限を明記します。原資が売却代金なら、支払期限は「売買代金の受領日から◯日以内」と決済日に連動させます。固定の日付では、売れなかった時点で債務不履行になります。
- 相続登記をする:売却の前提として名義を移します。登記は取得を知った日から3年以内が義務で、正当な理由なく違反すると10万円以下の過料の対象です(法務省 相続登記の申請義務化について)。2024年4月1日より前に相続を知った不動産も2027年3月31日までに登記が必要です(相続登記の義務化とは|2027年3月の期限と10万円の過料)。
- 売却して代金を受け取る:登録免許税は不動産の価額の1000分の4(0.4%)で、価額100万円以下の土地は2027年3月31日までの相続登記が免税です(法務局 相続登記の登録免許税の免税措置について)。相続で取得した場合、不動産取得税は課税されません(東京都主税局 不動産取得税)。
- 代償金を支払い、翌年に確定申告をする:申告義務は売った相続人にだけ生じます。
換価分割に切り替えたほうがよいケース
代償金を作るために結局売るのなら、最初から換価分割にしたほうが有利な場面があります。
| 比較項目 | 代償分割+売却 | 換価分割 |
|---|---|---|
| 譲渡所得の申告 | 取得した1人だけが申告する | 各人が持分に応じて申告する |
| 特別控除の枠 | 1人分しか使えない | 要件を満たせば各人が使える |
| 売却の手続き | 取得者1人で契約・決済できる | 全員が契約・決済に関与する |
| 売れなかったときのリスク | 代償金の債務だけが残る | 債務は残らない |
| 不動産を残す選択 | 残せる | 残せない |
特に効くのが特別控除の枠です。空き家の3,000万円特別控除は、枠が家屋と敷地を取得した相続人ごとに設けられています。2024年1月1日以後の譲渡では取得者が3人以上だと1人あたり2,000万円に縮小されると定められており(国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)、枠が人ごとにあることの裏返しです。代償分割で1人に集めれば控除は1人分だけになります(相続空き家の3,000万円特別控除とは|要件と期限)。
代償分割で取得した不動産を売るときの注意点
代償分割で取得した不動産を後から売る場合、税金の計算で3つの落とし穴があります。いずれも「代償金を払ったのだから有利になるはず」という直感が裏切られます。
取得費加算の特例は代償金があると加算額が減る
相続財産を相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(実質的に相続開始から3年10か月)に売ると、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算できます(国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)。取得費が増えれば税額が下がります。
ところが、代償金を支払って取得した相続財産を売った場合は、取得費に加算できる相続税額の計算式が通常と異なります。租税特別措置法関係通達39-7がこの計算を定めており、代償金に相当する部分が控除されるため、加算できる額は通常より少なくなります(国税庁 措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》関係)。
代償金を払った分だけ課税価格が減っており(No.4173)、負担した相続税額そのものが少ないからです。特例の期限と計算の考え方は相続税の取得費加算の特例とは|3年10ヶ月の期限と計算方法で整理しています。
代償金は譲渡費用にならない
もうひとつの誤解が「代償金を払ったのだから売却時の経費に入れられるはず」です。入りません。国税庁は譲渡費用を「資産を譲渡するために直接かかった費用」と定義し、修繕費や固定資産税などの維持・管理費用、売った代金の取立てのための費用は譲渡費用にならないとしています(国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの)。代償金は遺産分割に伴う相続人間の精算であり、売却のために直接かかった費用ではありません。
- 譲渡費用になるもの:仲介手数料、売買契約書の印紙税、貸家の立退料、土地を売るための建物取壊し費用、借地権の名義書換料など
- 譲渡費用にならないもの:代償金、修繕費、固定資産税、売った代金の取立てのための費用など
取得費と取得時期は被相続人から引き継ぐ
代償分割で取得しても、「自分が今年、代償金1,000万円で買った」ことにはなりません。相続や贈与で取得した土地・建物は取得費と取得の時期を被相続人・贈与者から引き継ぎ、長期・短期の判定も被相続人が取得した時から売った年の1月1日までで行います(国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期)。
被相続人が30年前に買った家なら、代償分割で取得した直後に売っても長期譲渡所得です。税率は所得税15%+住民税5%(復興特別所得税を含めて20.315%)で、短期の所得税30%+住民税9%(同39.63%)より大幅に軽くなります(国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算)。
不利に働くのは取得費が分からないときです。購入時の売買契約書が見つからないと取得費は売却価格の5%とみなされ、税額が膨らみます(投資用マンションの取得費がわからない|契約書紛失時の5%ルール)。協議の段階で購入資料を探しておくことが対策です。なお相続人が支払った登録免許税や不動産取得税は取得費に含められます(No.3270)。
期限に間に合わせるなら買取という選択肢
代償分割には「協議→相続登記→売却→代償金の支払い」という工程があり、それぞれ時間がかかります。一方で相続には動かせない期限が3つあります。
10か月・3年・3年10か月――3つの期限
| 期限 | 何の期限か | 起算点 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 10か月 | 相続税の申告と納税 | 相続の開始を知った日の翌日 | 国税庁 No.4205 |
| 3年 | 相続登記の申請義務 | 不動産の取得を知った日 | 法務省(施行前に知った分は2027年3月31日まで) |
| 3年10か月 | 取得費加算の特例の売却期限 | 申告期限の翌日以後3年 | 国税庁 No.3267 |
いちばんきついのが10か月です(国税庁 No.4205 相続税の申告と納税)。相続人の連絡先を揃え、財産を調査し、評価額をすり合わせ、協議書に全員の実印をもらう。ここまでで半年近く使うことも普通にあります。
分割が決まらない場合は、いったん法定相続分で申告・納税し「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。3年以内に分割が決まれば、分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をして特例を適用できます(国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告)。ただし最初の申告では小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が使えず、一時的に多めに納税することになります。
仲介と買取の違い
代償金を売却代金で作る場合、売り方は仲介と買取の2つです。
| 項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 買主 | 一般の個人・法人 | 不動産会社が直接購入する |
| 売却までの期間 | 数か月〜1年以上。買主が見つかるまで不確定 | 短期間で組める |
| 価格 | 市場価格で売れる可能性 | 仲介より低くなりやすい |
| 仲介手数料 | かかる | 不要 |
| 内覧・広告 | 必要 | 不要 |
| 確実性 | 売れないまま期限が来ることも | 合意すれば成立する |
買取が効くのは、代償金の支払期限や納期限が決まっており、いつ売れるか分からない状態を避けたい場面です。決済日が先に決まるため、支払いと納税のスケジュールを逆算できます。取得費加算の3年10か月が迫っているときも、特例を使えないまま売るより買取で期限内に決済したほうが手残りが多くなることがあります。
代償金を払わないまま放置すると何が起きるか
代償金は遺産分割協議で確定した金銭債務です。払わなければ通常の債務不履行と同じ扱いになります。
- 受け取る側は協議書を根拠に支払いを請求できます。金銭の支払いについて強制執行認諾文言を入れた公正証書にしておけば、それ自体が債務名義になり、裁判をせずに強制執行を申し立てられます(日本公証人連合会)。
- 遅延した場合の利息や損害金の扱いを協議書で決めていないと、後から争いの種になります。
- 支払いがないことを理由に遺産分割をやり直せるかは事案によって判断が分かれます。協議の段階で支払期限と担保を決めておくことが防御策です。
- 相続人同士の関係が壊れ、次の相続で揉める土台ができます。
順番はこうです。代償分割を選ぶ前に代償金を払えるかを確かめる。売って作るしかないなら、いくらで、いつまでに売れるのかを査定で確かめる。分割方法を決めるのはその後です。
よくある質問
代償金の額に上限はありますか?
法律上の上限はなく、相続人全員が合意すれば自由に決められます。ただし相続税の課税価格は、代償財産を交付した人が控除、交付を受けた人が加算という形で計算されるため(国税庁 No.4173)、相続分と大きくかけ離れた額にすると税務上の説明が必要になります。金額の根拠として、複数社の査定書や不動産鑑定士の鑑定評価書を残しておくと安全です。
代償金を受け取ると贈与税や所得税はかかりますか?
代償金として受け取った現金は、贈与税や所得税ではなく相続税の課税価格に加算されて計算されます。ただし遺産分割協議書に代償分割である旨が書かれていないと、後から渡した現金が別の贈与と見られる余地が生まれます。協議書に「代償として支払う」旨と金額・支払期限を必ず明記してください。
代償金は分割払いにできますか?
できます。相続人全員が合意すれば回数や期間は自由です。ただし長期になるほど回収できないリスクが上がるため、遺産分割協議書に回数・各回の金額・支払期限と、支払いが滞った場合の扱いまで具体的に書いておきます。金銭の支払いについて強制執行認諾文言を入れた公正証書にしておけば、回収手段を確保しやすくなります。
代償金を作るために不動産を売るなら、換価分割との違いは何ですか?
譲渡所得を申告する人が違います。代償分割では不動産を取得した1人だけが申告し、譲渡益も特別控除の枠も1人に集中します。換価分割なら相続人それぞれが持分に応じて申告し、要件を満たせば各人が特別控除の枠を使えます。不動産を残さないのであれば、換価分割のほうが有利になることがあります。
相続税の申告期限までに代償分割がまとまらないときはどうなりますか?
いったん法定相続分で相続税を申告・納税し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。申告期限から3年以内に分割が決まれば、分割の日の翌日から4か月以内に更正の請求をして特例を適用できます(国税庁 No.4208)。最初の申告では小規模宅地等の特例などが使えないため、納税額は一時的に多くなります。