離婚の話し合いで最後まで決まらないのが、住んでいた家の扱いです。名義は夫なのか妻なのか、ローンはまだ何千万円も残っている、どちらかが住み続けたい——預貯金のように「半分ずつ」と簡単には割り切れません。
結論から言うと、財産分与での家の価値は「評価額−ローン残高」で考え、婚姻中に築いた分を原則2分の1で分けます。そして2026年4月1日以降の離婚なら、家庭裁判所に財産分与を求められる期限は離婚から5年に延びました(それより前の離婚は2年のまま)。
もう一つ見落とされがちなのが税金です。家を渡す側には、お金を受け取っていなくても譲渡所得の課税があり得ます。分け方を決める前に、期限と税金の両方を押さえておきましょう。
この記事を読むとわかること
- 財産分与の対象になる家・ならない家(特有財産)の見分け方
- 「評価額−ローン残高」の計算と、オーバーローンの家の扱い
- 売る・住み続ける・ローンを残す、3つの分け方の違い
- 請求期限が2年から5年に延びた民法改正の対象になる人
- 家を渡す側の譲渡所得税と3,000万円特別控除の使い方
この記事の結論忙しい方はここだけ
- 家の分与額は評価額からローン残高を引いた額が基本。寄与の程度は、異なることが明らかでなければ2分の1ずつと民法に明記された
- 婚姻前から持っていた財産や、相続・贈与で得た財産は特有財産として分与の対象外
- 家庭裁判所への請求期限は、2026年4月1日以降の離婚なら5年、それより前の離婚なら2年(いずれも離婚した日の翌日から数える)
- 家を渡す側には分与時の時価で売ったとみなす譲渡所得課税。住んでいた家なら離婚後の分与で3,000万円特別控除を使える可能性がある
- 受け取る側は通常贈与税なし。ただし将来売るときは分与を受けた日から所有期間を数えるため、売った年の1月1日時点で所有5年以下なら短期譲渡所得となり、譲渡益に39.63%の税率がかかる
財産分与で不動産はどう扱われる?基本のルール
婚姻中に夫婦の協力で取得・維持した家は、名義に関係なく分与の対象です。分ける割合は、寄与の程度が異なることが明らかでない限り2分の1ずつです。
財産分与は、離婚した夫婦の一方が相手に対して財産の分与を請求できる制度で、民法第768条に定められています。裁判所は財産分与を「夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚する際又は離婚後に分けること」と説明しています。
財産分与には、婚姻中の財産を分け合う清算のほか、離婚後の生活を支える扶養、離婚に対する慰謝料の意味を含む場合があると解されています。この記事で扱う「評価額−ローン残高を2分の1で分ける」考え方は、このうちの清算に当たります。どの目的の分与かは、後で説明する不動産取得税の扱いにも関わります。
家は預貯金と違い、そのまま半分に切ることができません。そのため「家の価値をいくらとみるか」と「家を誰が取り、差額をどう払うか」の2段階で考えるのが基本です。
対象になる家・ならない家(共有財産と特有財産)
民法第762条は、夫婦の一方が婚姻前から持っている財産と、婚姻中に自分の名義で得た財産を「特有財産」としています。一方で、夫婦のどちらのものか明らかでない財産は共有と推定されます。
実務では、婚姻中に買った家は夫の単独名義でも、夫婦の協力で取得・維持した財産として分与の対象になるのが通常です。名義は分与の対象かどうかを決める決め手ではありません。
夫婦の一方が単独で持つ財産のこと。婚姻前の貯金で買った家、親から相続した家、親から贈与された土地などが典型で、原則として財産分与の対象外です。
- 婚姻後にローンを組んで買った自宅 → 分与の対象(名義が片方でも同じ)
- 結婚前に自分で買って完済していた家 → 特有財産として対象外
- 親から相続・贈与で受け取った家や土地 → 特有財産として対象外
- 婚姻前の貯金を頭金にして婚姻中に買った家 → 頭金部分の扱いが争点になる
分ける割合は原則2分の1(2026年4月から条文に明記)
2026年4月1日に施行された改正民法では、家庭裁判所が財産分与を定めるときの考慮要素が具体的に書き込まれました。婚姻中に取得・維持した財産の額と各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、各当事者の年齢・心身の状況・職業・収入などです。
さらに、寄与の程度は「異なることが明らかでないときは、相等しいもの」とする一文が加わりました。専業主婦(主夫)で収入がなかった側も、原則として半分を受け取れるという従来の実務が、条文の上でもはっきりした形です。
2分の1は「家を半分ずつ持つ」ことではない
- 家の純資産(評価額−ローン残高)を含めた夫婦の財産全体を2分の1で清算する
- 家は一方が取り、もう一方は預貯金や代償金で受け取る形がよく使われる
いつの時点の財産を分けるか(基準時)
横浜家庭裁判所の案内では、財産分与は婚姻中の財産の清算なので、一般的には別居時を基準時とするのが相当とされています。同居中なら離婚調停の申立日、すでに離婚している場合は離婚時などを基準にすることもあります。
同じ案内では、住宅ローンや預貯金は基準時の金額を、不動産のように価格が変わるものは直近の金額を書くよう求めています。つまりローンは基準時(通常は別居時)の残高、家の価値は直近の相場で比べる、というのが同家裁の案内です。
家の価値は「評価額−ローン残高」で考える
家の現在の評価額から基準時のローン残高を差し引いた額が、分ける対象になる純資産です。ローン残高のほうが多い家は、家単体では分けるプラスがありません。
家庭裁判所の審判では、分与の対象となる共有財産を特定し、その評価額を確定した上で、貢献度を考えて分配割合を定め、共有財産の総額にその割合を掛けて各自が取得すべき額を出す、と名古屋家庭裁判所は説明しています。家についても、この「評価額を確定する」作業が出発点です。
評価額の調べ方は4通り
家の評価額に法律で決まった算定方法はなく、夫婦が合意できる数字を使います。調停の申立てでは、不動産登記事項証明書と固定資産評価証明書などの提出が求められます。よく使われるのは次の4つです。
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| 調べ方 | 費用 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 不動産会社の査定 | 無料が一般的 | 実際に売れそうな価格に近い。複数社で幅を確認できる | 協議で早く合意したい、売却も視野に入れている |
| 固定資産税評価額 | 証明書の手数料のみ | 市区町村が決める税金用の評価で、市場価格とは一致しない | おおまかな比較、登録免許税の計算 |
| 路線価(相続税評価) | 無料で調べられる | 土地部分の目安。建物は別に考える必要がある | 土地の価値が中心の戸建て |
| 不動産鑑定士の鑑定 | 有料 | 根拠を示した評価書が出る | 評価額で激しく対立し、調停・審判に進む場合 |
※どの方法の数字を使うかは夫婦の合意次第です。1社だけの査定額は高すぎ・低すぎの可能性があるため、複数社の数字で幅を確認すると話し合いが進みやすくなります。
ローン残高を差し引いて分与額を出す
評価額が決まったら、住宅ローンの残高を差し引きます。残高は金融機関の残高証明書や返済予定表で確認でき、調停でも金融機関が作成した残高の分かる書面の提出を求める家庭裁判所があります。
査定額3,600万円・ローン残高2,000万円の家の場合
- 前提:婚姻中に夫名義で購入。ほかに分ける財産はないものとする
- 家の純資産:3,600万円 − 2,000万円 = 1,600万円
- 2分の1ずつなら1人あたり:1,600万円 ÷ 2 = 800万円
- → 夫が家とローンを引き継ぐなら、妻に800万円相当を渡して清算する
家を売って完済する場合も、手元に残る1,600万円(売却費用は別途差し引き)を半分ずつ分けるという同じ計算になります。
オーバーローンの家と、特有財産で払った頭金
評価額よりローン残高のほうが多い状態をオーバーローンといいます。この場合、家の純資産はマイナスになり、家単体では分けるプラスがありません。マイナス分をほかの預貯金などとどう相殺するかは、個別の事情を踏まえて判断されます。
査定額2,500万円・ローン残高3,000万円の家の場合
- 家の純資産:2,500万円 − 3,000万円 = −500万円
- → 家を売ってもローンを完済できず、500万円の不足が出る
売却で清算するなら、不足分を預貯金で埋めるか、金融機関と相談する必要があります。まず現在の価格を正確に知ることが、どの方法を取るかの前提になります。
また、婚姻前の貯金や親からの贈与を頭金にした場合、その部分は特有財産から出たお金です。その分を家の価値から差し引く、購入価格に占める割合で按分するなど考え方はいくつかありますが、法律に決まった計算式はありません。頭金の出どころを示す通帳や贈与の記録を残しておくことが大切です。
- 評価額は複数の方法から夫婦が合意できる数字を使う。ローンは基準時の残高
- 純資産がマイナスのオーバーローンなら、家単体では分けるプラスがない
- 特有財産から出した頭金は、裏付け資料があれば考慮される余地がある
家の分け方は3パターン|売る・住み続ける・ローンを残す
家を売って現金で分けるのが最も清算しやすい方法です。住み続ける場合は、ローンの名義と連帯保証を金融機関と整理できるかが分かれ目になります。
家の純資産が分かったら、次は「家をどうするか」を決めます。選択肢は大きく、売却して現金で分ける、一方が家を取って相手に代償金を払う、ローンを残したまま一方が住み続ける、の3つです。
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| 分け方 | 清算のしやすさ | 離婚後のつながり | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 売却して現金で分ける | 金額がはっきりする | 残らない | オーバーローンなら不足分の手当てが必要 |
| 一方が家を取り代償金を払う | 代償金の資金が必要 | ローン名義次第 | 名義変更の登録免許税、渡す側の譲渡所得 |
| ローンを残して一方が住み続ける | 清算が先送りになる | 返済が終わるまで続く | 返済が止まると住んでいる側が家を失うおそれ |
売却して現金で分ける
家を第三者に売り、ローンを完済して残ったお金を分ける方法です。売却額という客観的な数字が出るため、評価額をめぐる争いが起きにくく、離婚後にお互いの関係が残らないのが最大の利点です。
一方で、仲介で売る場合は買主が見つかるまで時間がかかり、その間のローン返済や固定資産税をどちらが負担するかを決めておく必要があります。売却費用(仲介手数料など)を差し引いた後の手取りで分けることも、あらかじめ合意しておきましょう。
メリット
- 売却額が決まるので評価額の争いが起きにくい
- ローンを完済でき、離婚後に返済のつながりが残らない
- 現金なので2分の1に分けやすい
デメリット
- 子どもの学区などで引っ越しが負担になる
- 売れるまでの返済・税金の負担を決めておく必要がある
- オーバーローンだと不足分の資金が要る
一方が住み続けて代償金を払う
家を取る側が、相手に純資産の半分に当たるお金(代償金)を払う方法です。先ほどの例なら、家を取る側が800万円を用意します。預貯金の分け方で調整したり、分割払いにしたりすることもあります。
名義が相手方にある家を取る場合は、財産分与を原因とする所有権移転登記が必要です。後で説明するとおり、家を渡す側には譲渡所得の課税があり、名義変更には登録免許税もかかるため、代償金の額を決める前に税金も試算しておきます。
ローンの名義と連帯保証は夫婦の合意だけでは変わらない
注意したいのは、「家は妻が取り、ローンも妻が払う」と夫婦で決めても、金融機関との契約上の債務者は自動的には変わらないことです。民法上、債務者を入れ替える免責的債務引受は、債権者(金融機関)との契約か、債権者の承諾があって初めて成立します。
また、家には通常ローンの抵当権が付いており、抵当権者である金融機関はその家から優先して弁済を受けられます。名義人の返済が止まれば、住んでいる側が家を失うおそれがあるため、借り換えや連帯保証の解除ができるかを金融機関に確認してから分け方を決めてください。
夫婦間の約束(離婚協議書や公正証書)でローンの負担者を決めても、金融機関に対しては元の契約がそのまま有効です。連帯保証人・連帯債務者になっている側は、離婚後も返済を求められる可能性が残ります。
財産分与の前に、その家が今いくらか知っていますか?
持ち続けるか、手放すか。判断の前提になるのは「現在の価格」です。
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財産分与の請求期限は2年から5年へ(2026年4月施行)
2026年4月1日以降に離婚した人は、離婚した日の翌日から5年以内なら家庭裁判所に財産分与を求められます。2026年3月31日までに離婚した人は2年のままです。
2024年5月に成立・公布された民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)は、2026年4月1日に施行されました。法務省の改正の概要には「財産分与の請求期間を2年から5年に伸長」と書かれています。
この期限は、夫婦の話し合い(協議)で分けることを禁じるものではありません。協議がまとまらないときに家庭裁判所へ処分を求められる期間の制限で、これを過ぎると調停・審判を申し立てられなくなります。
離婚した日で「2年」か「5年」かが決まる
改正法の附則には、施行日前に離婚した場合の請求期間の制限は「なお従前の例による」とする経過措置があります。つまり5年になるのは2026年4月1日以降に離婚した場合だけです。
- 2026年3月31日までに離婚従来どおり、離婚した日の翌日から2年が期限
- 2026年4月1日 改正民法の施行この日以降の離婚から新しいルールが適用
- 2026年4月1日以降に離婚離婚した日の翌日から5年まで申し立てられる
- 期限を過ぎると家庭裁判所に調停・審判を申し立てられなくなる
インターネット上には「離婚後2年」とだけ書かれた古い解説が残っています。自分がどちらに当たるかは、離婚が成立した日で確認してください。
協議がまとまらないときは調停・審判を申し立てる
離婚後に話し合いがまとまらない、または話し合いができない場合は、家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てます。裁判所の案内によると、申立先は相手方の住所地の家庭裁判所か当事者が合意で定める家庭裁判所で、費用は収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です。
- 財産の資料を集める登記事項証明書、固定資産評価証明書、ローン残高の分かる書面、預貯金の通帳写しなどをそろえる。
- 家庭裁判所に調停を申し立てる申立書と離婚時の夫婦の戸籍謄本などを提出。収入印紙1,200円分と郵便切手が必要。
- 調停で話し合う調停委員を介して財産の範囲・評価額・分け方を話し合う。期日の回数は決まっていない。
- 不成立なら審判へ合意できなければ審判手続に移り、裁判官が分与の額と方法を定める。
相手の財産が分からないときの情報開示命令
改正では、財産分与の手続に情報開示命令が設けられました。家庭裁判所は、財産の分与に関する処分の審判事件などで必要と認めるときは、申立てまたは職権で、当事者に財産の状況に関する情報の開示を命じることができます。
開示を命じられた当事者が正当な理由なく開示しなかったり、虚偽の情報を開示したりした場合は、10万円以下の過料に処せられます。相手名義の預貯金やローンの状況が分からず協議が進まないときの手段になります。
財産分与と税金|家を渡す側の譲渡所得と3,000万円控除
家を財産分与で渡す側には、分与時の時価を収入金額とする譲渡所得の課税があります。住んでいた家を離婚後に分与するなら、3,000万円特別控除で、譲渡益が3,000万円以下なら税額はゼロになります(確定申告は必要)。
「お金を受け取っていないのに税金がかかる」のが、不動産の財産分与で最も誤解されやすい点です。国税庁のタックスアンサー(No.3114)は、財産分与が土地や建物で行われたときは、分与した人に譲渡所得の課税が行われると明記しています。
家を渡す側に譲渡所得の課税がある理由
財産分与で家を渡すと、相手に対して負っている分与の義務がその家で消えます。税務上は分与した時の時価で家を売ったのと同じと扱われ、時価が譲渡所得の収入金額になります。
譲渡所得は「時価 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算します。取得費は購入代金などで、建物は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた額です。取得費が分からない場合は、売った金額の5%相当額を取得費とすることもできます。
3,000万円特別控除と軽減税率の要件
渡す家が自分の住んでいた家なら、マイホームを売ったときの3,000万円特別控除を使える可能性があります。所有期間の長短は問われませんが、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 現に住んでいる家、または住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに渡すこと
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」への譲渡でないこと(婚姻中の配偶者に渡すと使えない)
- 前年・前々年にこの特例やマイホームの譲渡損失の特例を受けていないこと
- 税額がゼロになる場合でも確定申告をすること
さらに、譲渡した年の1月1日時点で家と敷地の所有期間がともに10年を超えていれば、軽減税率の特例も重ねて使えます。控除後の課税長期譲渡所得のうち6,000万円以下の部分は所得税が10%となり、通常の長期の所得税15%より低くなります。
時価3,800万円・取得費2,600万円の家を離婚後に分与した場合
- 譲渡所得:3,800万円 − 2,600万円 = 1,200万円(譲渡費用はゼロと仮定)
- 夫が住んでいた家で要件を満たす場合:1,200万円 − 3,000万円控除 → 税額0円(確定申告は必要)
- 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末を過ぎて特例が使えず、所有5年超の長期の場合:1,200万円 × 20.315% = 243万7,800円
同じ家でも、分与のタイミングひとつで240万円以上の差が出ます。家を出た側が渡す場合は、住まなくなった日から数えた期限を必ず確認してください。
受け取る側は原則非課税、ただし売るときに注意
国税庁のタックスアンサー(No.4414)によると、離婚で財産をもらっても通常は贈与税がかかりません。贈与ではなく、財産分与請求権に基づく給付と考えられるためです。
ただし、夫婦の協力で得た財産の額などを考慮しても分与額が多すぎる場合はその多すぎる部分に、贈与税や相続税を免れるための離婚と認められる場合はもらった財産すべてに贈与税がかかります。
不動産取得税にも注意が必要です。東京都の審査請求の裁決では、婚姻中の財産関係を清算する趣旨の分与で、夫婦の共有と推定される財産を取得した場合は課税されない一方、離婚に対する慰謝や将来の扶養を目的とする分与なら課税されるという考え方が示されています。同じ裁決では、婚姻中に一方が自分の名義で取得した不動産の分与は、特段の事情がない限り慰謝・扶養が目的とみられ、受け取った側への課税が維持されました。相手の単独名義の家を受け取るなら、清算の趣旨であることを書面に残し、扱いを都道府県の税事務所に確認しておくと安心です。詳しくは離婚で家の名義変更をする手順で解説しています。
もう一つの注意点は、受け取った家を将来売るときです。
分与を受けた人は分与を受けた日の時価で取得したものとされ、長期・短期の判定も分与を受けた日から数えます。売った年の1月1日時点で所有5年以下なら短期譲渡所得となり、税率は39.63%(所得税30%・住民税9%・復興特別所得税)です。
ただし受け取った家に自分が住んでから売る場合は、所有期間の長短に関係なく3,000万円特別控除を使える可能性があります。詳しくは短期譲渡所得の税率と判定の数え方で解説しています。
家を渡す側は3,000万円控除が使える時期か、受け取る側は売る年の1月1日時点で所有5年を超えるまで売る予定がないかを確認してから分け方を決める。どちらも分与の「時期」で税額が大きく変わります。
名義変更にかかる登録免許税
財産分与で家の名義を移すときは、所有権移転登記の登録免許税がかかります。国税庁の登録免許税の税額表では、売買・相続以外の「その他(贈与・交換・収用・競売等)」による所有権移転は不動産の価額の1,000分の20です。
課税標準となる不動産の価額は、原則として固定資産課税台帳に登録された価格です。たとえば土地と建物の固定資産税評価額が合計1,500万円なら、登録免許税は1,500万円 × 2% = 30万円になります。
- 渡す側:分与時の時価で売ったとみなされ、譲渡所得の課税がある
- 住んでいた家を離婚後に渡すなら3,000万円控除。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末が期限
- 受け取る側:贈与税は通常なし。名義変更の登録免許税は固定資産税評価額の2%
離婚で家を売るときの落とし穴と買取という選択肢
共有名義なら2人の同意がそろわないと売れず、税金は名義を移す時期で変わります。清算を急ぐなら、仲介と買取の手取りを並べて比べるのが現実的です。
家を売って現金で分けると決めても、離婚特有の事情で手続きが止まることがあります。よくある落とし穴を3つ挙げます。
共有名義の家は2人の同意がないと売れない
夫婦の共有名義で買った家は、民法第251条により、共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が必要です。各自の持分は単独で売れますが、家全体の売却には共有者全員の同意が必要で、相手が売却に応じなければ家全体は売れません。
離婚の協議で「売る」と決めたら、売却の時期、最低価格、売却費用の負担、手取りの分け方まで書面に残しておくと、後から話がこじれにくくなります。協議がまとまらない場合の共有の解消方法は共有物分割請求の流れと費用も参考にしてください。
離婚成立前に夫婦間で家を移すと控除が使えないおそれ
3,000万円特別控除は、夫婦など特別の関係がある人への譲渡には使えません。離婚が成立する前に夫婦間で贈与や売買として家を移すと、「特別の関係がある人」への譲渡として特例が使えないおそれがあります。分与の時期は、事前に税理士や税務署に確認してください。
一方、第三者に売る場合は、買主が特別の関係がある人に当たらなければこの要件は問題になりません。ただし「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日まで」の期限は同じように適用されるため、別居後に売却を先延ばしにしすぎないことが大切です。
早く現金化して清算したいなら買取も比べる
仲介での売却は、買主が見つかるまで数か月かかることも珍しくありません。その間もローン返済と固定資産税は続き、どちらが払うかで揉める原因になります。離婚の清算を早く終えたい場合は、不動産会社が直接買い取る「買取」も選択肢です。
買取のメリット
- 買主を探す期間がなく、引渡し時期を決めやすい
- 近所に知られにくく、内覧の対応も最小限で済む
- 3,000万円控除の期限が近いときに日程を合わせやすい
買取のデメリット
- 一般に仲介で売れる価格より低くなりやすい
- オーバーローンの場合は不足分の手当てが必要なのは同じ
どちらが有利かは、仲介で売れるまでの返済・税金の負担と、価格差を比べて初めて分かります。仲介の査定額と買取の提示額を同時に取り、手取りで比較してから決めるのが確実です。
よくある質問
家が夫の単独名義でも、妻は財産分与を請求できますか?
請求できます。名義が一方にあっても、婚姻中に夫婦の協力で取得・維持した家であれば財産分与の対象になります。対象から外れるのは、婚姻前から持っていた財産や、相続・贈与で受け取った財産などの特有財産です。
2026年3月に離婚した場合、財産分与の期限は5年になりますか?
なりません。改正法の経過措置により、2026年4月1日より前に離婚した場合は従前どおり離婚した日の翌日から2年が家庭裁判所に申し立てられる期限です。
2026年3月の離婚なら、期限は2028年3月中に来ます。早めに協議を始めてください。
家を財産分与で受け取った側にも税金はかかりますか?
通常、贈与税はかかりません。ただし分与額が多すぎる部分や、税金逃れのための離婚と認められる場合は課税されます。
また、受け取った家を将来売るときは、分与を受けた日から所有期間を数え、売った年の1月1日時点で5年以下なら短期譲渡所得になります。
住宅ローンが残っている家でも売却できますか?
売却代金と手元資金でローンを完済できれば、抵当権を抹消して売却できます。
売却額が残高に届かないオーバーローンの場合は、不足分の用意か金融機関との交渉が必要になるため、まず現在の価格を確認してください。
この記事のまとめ
- 婚姻中に取得・維持した家は名義に関係なく対象。特有財産は対象外で、割合は原則2分の1
- 家の分与額は「評価額−基準時のローン残高」。オーバーローンなら家単体のプラスはない
- 売却・代償金・ローンを残して住む、の3通り。ローンの債務者は金融機関の承諾なしに変わらない
- 請求期限は2026年4月1日以降の離婚なら5年、それより前の離婚なら2年
- 渡す側は時価で譲渡所得課税。住んでいた家を離婚後に渡すなら3,000万円控除を検討する
- 受け取った家は分与の日から所有期間を数え、売った年の1月1日時点で5年以下なら短期譲渡所得(税率39.63%)
どの分け方を選ぶにしても、出発点は「その家が今いくらか」です。まず現在の価格を知り、仲介と買取の手取りを並べて話し合いの材料にしてください。