離婚の話し合いが進むなかで、「この家はどうするのか」が決まらずに止まっている方は少なくありません。ローンがまだ残っている、名義が2人の共有になっている、どちらかが住み続けたい——家は預金のように半分に割れないぶん、話がこじれやすい財産です。
結論から言うと、売ると決めているなら、離婚前に売却の段取りを始めるほうが進めやすいのが一般的です。そのうえで、最初にやるべきことは「ローン残高」と「今の売却価格」を並べて比べること。ここでアンダーローンかオーバーローンかが分かれば、売り方も分け方も決まってきます。
この記事では、売るタイミング、オーバーローンのとき、共有名義の同意、売却益の分け方、住み続ける場合との比較を順に整理します。財産分与・名義変更・住宅ローンの細かな手続きは概要にとどめています。
この記事を読むとわかること
- 離婚前に売るか、離婚後に売るかの判断の分かれ目と期限
- オーバーローンの家を離婚に合わせて売るときの選択肢
- 共有名義・連帯債務の家で相手の同意が必要になる場面
- 売却益の分け方(2分の1の原則)と、税金・贈与税の扱い
- 売らずにどちらかが住み続ける場合との違い
この記事の結論忙しい方はここだけ
- 売ると決めているなら離婚前に売却の段取りを始めるほうが、連絡や同意の手間が少なく進めやすくなります。
- 離婚後に財産分与を家庭裁判所に申し立てられるのは、2026年4月1日以降の離婚なら離婚の翌日から5年(それより前の離婚は2年)までです。
- ローン残高が売却価格を上回るオーバーローンなら、不足分を用意するか、金融機関の同意を得る任意売却が必要です。
- 共有名義の家は2人の同意がないと売れません。売却益は、寄与の程度が異なることが明らかでなければ2分の1ずつが原則です。
- マイホームの3,000万円特別控除は共有者1人ごとに最高3,000万円。家を出た側は住まなくなってから3年後の年末までに売る必要があります。
離婚で家を売却するのは離婚前か、離婚後か
売ると決めているなら、2人が連絡を取り合える離婚前に売却の段取りを始めるほうが進めやすくなります。離婚後に売る場合は、財産分与の申立期限と3,000万円控除の期限を押さえておく必要があります。
家の売却は、査定・売り出し・買主との契約・引渡しと、いくつもの段階を踏みます。共有名義なら、そのたびに2人の署名や立ち会いが必要になる場面があります。
離婚が成立して別々に暮らし始めると、連絡が途絶えたり、日程が合わなくなったりして、手続きが止まりやすくなります。これが「離婚前に動き出すほうがよい」と言われる一番の理由です。
離婚前に売るメリットと注意点
離婚前に売れば、売却価格と手残りの金額が確定した状態で財産分与の話し合いができます。「家はいくらで売れるのか」という一番揉めやすい数字を、推測ではなく実額で決められるのが大きな利点です。
一方で、売却が終わるまで離婚の成立を待つと、気持ちのうえで負担が長引くこともあります。その場合は、離婚協議書で「家は売却し、手残りを○対○で分ける」と取り決めてから先に離婚し、売却は後で進めるという形もとれます。
離婚前に売るメリット
- 2人の同意・署名を取りやすい
- 実際の売却額をもとに財産分与を決められる
- 離婚後に家の問題を持ち越さない
離婚前に売る注意点
- 売れるまで離婚の成立が延びることがある
- 住み続けている側の引っ越し先を先に決める必要がある
- 夫婦間で家を売買しても3,000万円控除は使えない
離婚後に売るなら2つの期限に注意
離婚後に売る場合、まず意識したいのが財産分与の申立期限です。話し合いがまとまらないとき、家庭裁判所に財産分与の調停・審判を申し立てられるのは、裁判所の案内によると離婚した日の翌日から5年までです。令和8年(2026年)4月1日より前に離婚した場合は、従来どおり2年で申し立てられなくなります。
この5年への延長は、法務省が公表している民法等の改正(2026年4月1日施行)によるものです。2026年3月以前に離婚した方は、2年の期限が適用される点に注意してください。
もう1つは、家を出た側が使う3,000万円特別控除の期限です。以前住んでいた家は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売らないと特例の対象外になります(詳しくは後述の税金の章)。
- 2026年10月 別居(夫が家を出る)夫が住まなくなった日。3,000万円控除の期限の起点
- 2026年12月 離婚成立財産分与の申立期限(5年)の起点は離婚の翌日
- 2029年12月31日夫が3,000万円控除を使って売れる期限
- 2031年12月家庭裁判所に財産分与を申し立てられる期限
どちらが向いているかの判断基準
次のどれかに当てはまるなら、離婚前から売却の準備を始めることを考えてください。逆に、子どもの学校の区切りまで住み続けたいなど、売る時期を後ろにずらす理由がはっきりしているなら、取り決めを書面に残したうえで離婚後に売る形でもかまいません。
- 家が2人の共有名義、またはローンが連帯債務・連帯保証になっている
- 離婚後は相手と連絡を取りにくくなりそう
- 財産分与の金額を、家の実際の売却額で決めたい
- ローンの返済をどちらが続けるか決まっていない
- 売ると決めているなら、同意を取りやすい離婚前に動き出す
- 離婚後に売るなら、財産分与の申立期限(5年または2年)と3,000万円控除の期限を確認する
最初にローン残高と売却価格を比べる
売却価格からローン残高と売却費用を引いて、プラスならアンダーローン、マイナスならオーバーローンです。オーバーローンのままでは原則として売却できないため、不足分の手当てを先に考えます。
離婚で家をどうするかを話し合う前に、2つの数字をそろえてください。「ローンがあといくら残っているか」と「家が今いくらで売れそうか」です。この2つが無いまま話し合っても、売るべきか、住み続けられるかの判断がつきません。
売却価格でローンを全額返せる状態をアンダーローン、売却価格よりローン残高のほうが多く、売っても借金が残る状態をオーバーローンといいます。
残高と査定額を確認する方法
ローン残高は、金融機関から届く返済予定表や残高証明書で確認できます。分からなければ、借入先の金融機関に問い合わせれば教えてもらえます。名義人でない側は、名義人に確認してもらう必要があります。
売却価格は、不動産会社に査定を依頼して確認します。1社だけだと高すぎる・低すぎる価格に引っ張られやすいので、複数社の査定額を並べて相場の幅をつかむのが基本です。離婚の話し合いでは、どちらか一方が選んだ1社の数字だけだと納得を得にくい点も、複数社で比べる理由になります。
アンダーローンなら売却代金で完済できる
アンダーローンなら、買主から受け取る売却代金でローンを返し、家に付いている抵当権を外して引き渡せます。手元に残ったお金が、財産分与で分ける対象になります。
お金を貸した金融機関が、返済されなかったときに家を売ったお金から優先して回収できる権利です(民法369条)。住宅ローンを組むと家に設定されます。
抵当権が付いたままの家は、買主にとって「前の持ち主の借金のために家を取られるかもしれない」状態です。そのため実務では、引渡しと同時にローンを完済し、抵当権を抹消するのが通常の流れになります。
オーバーローンで売るには不足分の手当てが必要
オーバーローンの場合、売却代金だけではローンを返しきれず、抵当権を外せません。選択肢は大きく次の3つです。
- 不足分を預貯金など自己資金で補って完済し、通常どおり売却する
- ローンの返済が難しいなら、金融機関の同意を得て売る「任意売却」を相談する
- 売却をいったん見送り、どちらかが住み続けて返済を続ける(後述)
任意売却は、ローンを完済できなくても金融機関の同意を得て抵当権を外してもらい、売却する方法です。売却後に残った借金の返し方も金融機関と相談します。手続きや期限は、任意売却の流れと期限を解説した記事で詳しく説明しています。返済が止まったまま放置すると、金融機関が競売を申し立て、裁判所の手続きで家が売られることになります。
査定額3,000万円・ローン残高3,300万円の家を売る場合
- 仲介手数料の上限(税込):3,000万円×3.3%+6.6万円=105.6万円
- ローン返済後の不足:3,000万円-3,300万円-105.6万円=マイナス405.6万円
- → 売るには約406万円(登記費用などは別途)を自己資金で用意するか、金融機関と任意売却を相談する
オーバーローンの家は、どちらがこの不足分を負担するのかも財産分与の話し合いの対象になります。数字を出してから話し合うと、感情論になりにくくなります。
※仲介手数料は、売買価格のうち200万円以下の部分は5.5%、200万円超400万円以下の部分は4.4%、400万円超の部分は3.3%(いずれも税込)を合計した額が上限です。400万円を超える物件なら「売買価格×3.3%+6.6万円」と同じ額になります。
共有名義・連帯債務の家は2人の同意が必要
共有名義の家を丸ごと売るには、共有者全員(夫婦2人)の同意が必要です。また、ローンの連帯債務や連帯保証は、離婚しただけでは外れません。
夫婦でペアローンを組んだり、頭金をそれぞれ出したりして、家の名義を2人の共有にしているケースはよくあります。共有名義の家は、どちらか一方の判断だけでは売れません。
まず登記簿(登記事項証明書)で、家と土地の名義が誰で、持分がどれだけかを確認してください。思い込みで「夫の家」「2人の家」と考えていると、話し合いの前提がずれてしまいます。
共有名義の家は1人だけでは売れない
民法251条は、各共有者は他の共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えることができないと定めています。家を売るような処分も、共有者全員の同意が必要というのが基本的な考え方です(法務省の法制審議会資料でも、共有物の変更又は処分には共有者全員の同意を要するという規律を前提にしています)。
つまり、夫が売りたくても妻が反対していれば、家全体を売ることはできません。売却の合意は、離婚協議書などの書面に残しておくと、後になって「売るとは言っていない」という揉め方を防げます。
相手が売却に応じないときの手段
話し合いがまとまらない場合でも、共有者はいつでも共有物の分割を請求できます(民法256条)。協議が調わなければ裁判所に分割を求めることもでき(民法258条)、その結果として家を売って代金を分ける形になることもあります。
ただし裁判は時間も費用もかかり、最終的に競売になると市場より安い価格になりやすいのが実情です。流れや費用は共有物分割請求の記事で詳しく解説しています。離婚前であれば、家の扱いも離婚調停の中で話し合えます。
相手と連絡が取れない、話し合いに応じないという状態が続くと、売却の判断がどんどん遅れます。早い段階で弁護士や家庭裁判所の手続きを検討してください。
連帯債務・連帯保証は離婚しても外れない
見落とされやすいのが住宅ローン側の名義です。家の名義が夫だけでも、妻がローンの連帯保証人や連帯債務者になっていることがあります。保証人は、主たる債務者が返済しないときに代わりに返済する責任を負います(民法446条)。
夫婦の間で「ローンは夫が払う」と取り決めても、それは金融機関との契約を変えるものではありません。借金の名義を一方に移すには、金融機関(債権者)の関与が必要です(民法472条の免責的債務引受も、債権者との契約か債権者の承諾が要件です)。家を売ってローンを完済すれば、この問題自体がなくなります。
名義は「家」と「ローン」の2つを確認する
- 家の名義と持分 → 登記事項証明書で確認
- ローンの名義(単独・ペアローン・連帯債務・連帯保証) → 金銭消費貸借契約書で確認
売却益の分け方|財産分与は2分の1が原則
売却代金からローン残高と売却費用を引いた手残りを、寄与の程度が異なることが明らかでなければ2分の1ずつ分けるのが原則です。名義がどちらか一方でも変わりません。
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を離婚の際に分けることです。家の名義が夫だけでも、婚姻中に買って返済してきた家なら、原則として財産分与の対象になります。
分ける対象は「婚姻中に築いた分」
民法762条は、夫婦の一方が婚姻前から持っていた財産や、婚姻中に自分の名前で得た財産を「特有財産」としています。たとえば結婚前の貯金から出した頭金や、親から相続したお金を入れた分は、財産分与の対象から外す主張ができる可能性があります。
どこまでが特有財産と認められるかは、通帳の記録などの証拠次第です。頭金の出どころに争いがありそうなら、売却の前に資料を集めておきましょう。
手残りの計算と2分の1の分け方
2026年4月1日に施行された改正民法768条3項では、家庭裁判所が財産分与を決める際、婚姻中の財産の取得や維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは相等しいものとすると明記されました。法務省の改正概要でも「原則2分の1ずつ」と説明されています。
実際に分けるのは、売却代金そのものではなく、ローン完済と売却費用を差し引いた後の手残りです。
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| 項目 | 金額 | メモ |
|---|---|---|
| 売却価格 | 4,000万円 | 買主から受け取る代金 |
| ローン残高 | -2,400万円 | 引渡し時に一括返済 |
| 仲介手数料(上限・税込) | -138.6万円 | 4,000万円×3.3%+6.6万円 |
| 手残り | 1,461.4万円 | 抵当権抹消の登記費用などは別途 |
| 1人あたり(2分の1) | 730.7万円 | 特有財産の主張がない場合 |
※金額は計算例です。実際には登記費用・印紙代・引っ越し費用などもかかります。
頭金のうち500万円が妻の結婚前の貯金だった場合
- 上の表の手残り1,461.4万円から、妻の特有財産として500万円を先に差し引くと考える
- 残り961.4万円を2分の1ずつ → 1人480.7万円
- → 妻は500万円+480.7万円=980.7万円、夫は480.7万円
特有財産をどう差し引くかは、家の値下がりの程度などによって考え方が分かれます。これは1つの計算の型として見てください。
分けたお金に贈与税は原則かからない
家の名義が夫だけで、売却代金をいったん夫が受け取り、その半分を妻に渡す——この場合でも、国税庁の案内では、離婚により相手方から財産をもらった場合、通常、贈与税はかからないとしています。
例外は、分与された額が婚姻中の協力で得た財産の額などを考慮してもなお多すぎる場合(多すぎる部分に課税)と、離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合です。分け方を書いた離婚協議書を残しておくと、財産分与として受け取ったことを説明しやすくなります。
財産分与の前に、家が今いくらで売れるか知っていますか?
持ち続けるか、手放すか。判断の前提になるのは「現在の価格」です。
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売却で利益が出たときの税金と3,000万円控除
マイホームを売って利益が出ても、3,000万円特別控除を使えば税金がかからないケースが多いです。共有名義なら1人ごとに最高3,000万円。ただし家を出た側には売却の期限があります。
家を売って利益(譲渡所得)が出ると、所得税・住民税がかかります。離婚に伴う売却でも、普通の売却と同じルールで計算します。一方で、マイホームには大きな控除があるため、正しく申告すれば税金が0円になることも少なくありません。
譲渡所得の計算のしかた
国税庁の説明では、譲渡所得の金額は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。取得費は購入代金など(建物は減価償却後の額)、譲渡費用は仲介手数料や売買契約書の印紙代など、売るために直接かかった費用です。
所有期間が売った年の1月1日時点で5年を超えていれば長期譲渡所得となり、税率は所得税15%(復興特別所得税を含めて15.315%)と住民税5%の合計20.315%です。5年以下だと税率がほぼ2倍の39.63%になるため、購入から日が浅い家は短期譲渡所得の記事も確認してください。
共有名義なら1人ごとに最高3,000万円
マイホームを売ったときは、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。共有のマイホームの場合は、この特例を使えるかどうかを共有者ごとに判定し、要件を満たす共有者1人につき最高3,000万円です。共有者全員で3,000万円ではありません。
特例を使うには確定申告が必要で、共有の場合は申告書を1人1人が提出します。売却益が控除の範囲に収まって税金が0円になる場合でも、申告しなければ特例は使えません。
夫婦2分の1ずつの共有の家を4,000万円で売った場合(所有10年)
- 取得費(減価償却後)2,600万円、仲介手数料138.6万円と仮定
- 譲渡所得:4,000万円-2,600万円-138.6万円=1,261.4万円 → 1人630.7万円
- → 2人とも3,000万円控除の要件を満たせば、税金は2人とも0円
- → 控除が使えず長期税率20.315%がかかると、合計で約256万円
控除が使えるかどうかで、手残りが大きく変わります。売る前に、2人それぞれが要件を満たすかを確認してください。
家を出た側は「3年後の年末」が期限
別居や離婚で先に家を出た人も、以前住んでいた家として特例を使える可能性があります。ただし国税庁の要件では、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。
また、この特例は親子や夫婦など「特別の関係がある人」に売った場合は対象外です。離婚前に夫婦の一方がもう一方の持分を買い取る形では使えないので、注意してください。ほかにも前年・前々年に同じ特例を使っていないことなどの要件があります。
- 共有名義なら3,000万円控除は1人ごと。申告書も1人1人が出す
- 家を出た側は「住まなくなってから3年後の年末」までに売る
- 夫婦間での売買には3,000万円控除が使えない
売らずに住み続ける選択肢との比較
どちらかが住み続ける方法もありますが、ローンと名義の整理が残ります。売却はお金で分けて関係を清算でき、住み続けるのは生活の継続を優先する選択です。
子どもの学区を変えたくない、住み慣れた家を離れたくないといった理由で、どちらかが住み続けるケースもあります。その場合は、家の名義・ローンの支払い・財産分与のバランスをどう取るかを決める必要があります。名義変更やローンの手続きの詳細は離婚時の家の名義変更の手順と離婚時の住宅ローンの扱いの記事で解説しているので、ここでは売却との違いに絞って整理します。
住み続ける場合に決めておくこと
住み続ける場合に話し合っておくことは、主に次の4つです。いずれも口約束にせず、離婚協議書や公正証書に残しておくことが大切です。
- 家の名義を誰にするか(住む人に移すか、そのままか)
- ローンを誰が払い続けるか、名義人と住む人が違う場合の取り決め
- 連帯保証・連帯債務を外せるか(金融機関への相談が必要)
- 家を受け取る側が、相手に代わりの金銭を払うかどうか
特に、家に住まない側がローンを払い続ける形は、支払いが途絶えたときに住んでいる側が家を失うおそれがあります。売るか住み続けるかを決めるときは、10年後・20年後も約束が守られるかという視点で考えてください。
家を財産分与で渡すと渡した側に税金がかかることも
家を売らずに、財産分与として相手に名義を移す場合にも税金の注意点があります。国税庁は、譲渡には通常の売買のほか財産分与も含まれるとしています。財産分与で家を渡した側は、その時の価額で家を譲渡したものとして扱われます(所得税基本通達33-1の4)。
つまり、家が買った時より値上がりしていれば、お金を受け取っていなくても、渡した側に譲渡所得の申告が必要になる場合があります。一方、家を受け取った側には、前述のとおり原則として贈与税はかかりません。
売る・住み続けるの比較表
売却と住み続ける場合の違いを、離婚の話し合いで論点になりやすい項目で比べると次のようになります。
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| 項目 | 売却して分ける | どちらかが住み続ける |
|---|---|---|
| 財産の分け方 | 手残りの現金を分けるので明確 | 家の評価額をめぐって意見が割れやすい |
| 住宅ローン | 完済すれば連帯保証なども終わる | 返済と保証の関係が離婚後も続くことがある |
| 住まい | 2人とも引っ越しが必要 | 住んでいる側は生活環境を変えずに済む |
| オーバーローン | 不足分の手当てか任意売却が必要 | 返済を続ける限り売らずに済む |
| 税金 | 利益が出れば譲渡所得(3,000万円控除あり) | 財産分与で名義を渡すと渡した側に譲渡所得の可能性 |
離婚に合わせた売却の進め方|仲介と買取の使い分け
査定でローン残高との差を確認し、売り方と分け方を決めてから売り出すのが基本の順番です。期限が迫っている、早く関係を清算したいなら買取も比較してください。
離婚に伴う売却は、普通の売却に比べて「2人の合意」と「期限」という制約が加わります。順番を間違えると、売り出してから分け方で揉めて止まる、ということが起こりがちです。
売却までの5つのステップ
- 名義とローンを確認する登記事項証明書で家の名義と持分を、返済予定表や契約書でローン残高と連帯保証の有無を確認します。
- 複数社に査定を依頼する2人とも納得できる相場の幅をつかみ、アンダーローンかオーバーローンかを判断します。
- 売り方と分け方を書面で決める売却価格の下限、手残りの分け方、売れるまでの住まいとローン返済の負担を、離婚協議書などに残します。
- 売却・引渡し共有名義なら、売買契約や引渡しで2人の署名・手続きが必要です。引渡し時にローンを完済して抵当権を抹消します。
- 翌年に確定申告する3,000万円控除を使う場合は、税金が0円でも売った翌年に確定申告が必要です。
- 名義・残高の確認登記と返済予定表
- 複数社の査定相場の幅をつかむ
- 分け方の合意ここで揉めると止まる
- 売却・引渡しローン完済・抹消
- 確定申告売った翌年
売り出し中に決めておく値下げ・内覧・報告
売り出した後も、2人で決めることは続きます。特に揉めやすいのが「いつ、いくらまで値下げするか」と「住んでいる側の内覧への協力」です。売り出し価格が相場より高すぎると問い合わせが少なく、売却が長引きやすいのが一般的です。売り出す前に、次の点も書面で決めておきましょう。
- 売り出し価格と、これ以上は下げない下限価格
- 問い合わせが少ないときに値下げを検討する時期と、その決め方
- 住んでいる側の内覧への協力(日程の調整や室内の片付け)
- 不動産会社からの報告を2人で共有する方法
仲介を頼むときは、不動産会社と媒介契約を結びます。1社だけに任せる専任媒介契約の有効期間は、宅地建物取引業法34条の2で3か月が上限と決められており、更新には依頼者の申出が必要です。また専任媒介では、不動産会社は売却活動の状況を2週間に1回以上(専属専任媒介は1週間に1回以上)依頼者に報告しなければなりません。この報告と3か月の区切りを、価格を見直す話し合いのきっかけにすると、片方だけが状況を知っているという不信も避けやすくなります。
早く確実に終わらせたいなら買取も候補
仲介での売却は、買主が見つかるまで時期が読めません。その間、住んでいない側もローンや固定資産税を負担し続けることになりがちです。不動産会社が直接買い取る「買取」は、仲介より価格が下がりやすい一方で、買主を探す期間がなく、引渡しの時期を決めやすいのが特徴です。
財産分与の申立期限や、3,000万円控除の「3年後の年末」が迫っている場合、または相手との接点をできるだけ早く減らしたい場合は、仲介の査定と買取の価格を両方取り、手残りと時間の両面で比べてみてください。
離婚で家を売るときの順番は、「残高と査定額を並べる」→「分け方を書面で決める」→「売る」。数字が先にあれば、2人の話し合いは感情ではなく計算で進められます。
話し合いの前にそろえておく資料
話し合いや査定をスムーズに進めるために、次の資料を手元に集めておきましょう。どれも、売却するかどうかを決める前に用意しておいて損のないものです。
- 登記事項証明書(家と土地の名義・持分の確認)
- 住宅ローンの返済予定表・金銭消費貸借契約書
- 購入時の売買契約書・領収書(取得費の計算に使う)
- 頭金の出どころが分かる通帳の記録(特有財産の主張に使う)
- 固定資産税の納税通知書
よくある質問
離婚した後でも、家の売却益について財産分与を請求できますか?
請求できます。まずは当事者の話し合いで決め、まとまらない場合、家庭裁判所に財産分与の調停・審判を申し立てられるのは、離婚した日の翌日から5年までです。ただし2026年4月1日より前に離婚した場合は2年で申し立てられなくなるため、離婚した日を必ず確認してください。期限内でも、家を売る前に分け方を書面で決めておくと安心です。
夫名義の家を売って、売却代金の半分を妻に渡すと贈与税はかかりますか?
離婚による財産分与として受け取ったお金には、通常、贈与税はかかりません。
ただし、婚姻中の協力で得た財産の額などを考慮しても多すぎる部分や、税金を免れるための離婚と認められる場合は課税されます。分け方は離婚協議書に残しておきましょう。
オーバーローンでも離婚前に家を売れますか?
不足分を預貯金などで補ってローンを完済できれば、通常どおり売却できます。補えない場合は、金融機関の同意を得て売る任意売却を相談することになります。返済が止まったまま放置すると競売になるおそれがあるため、早めに動くことが大切です。
住宅ローンの連帯保証人は、離婚すれば外れますか?
離婚しただけでは外れません。連帯保証や連帯債務は金融機関との契約なので、夫婦の間で取り決めても金融機関には主張できません。外すには金融機関との相談が必要で、家を売ってローンを完済すれば保証の問題もなくなります。
この記事のまとめ
- 売ると決めているなら、2人の同意を取りやすい離婚前に売却の段取りを始める
- 最初にローン残高と査定額を比べ、オーバーローンなら不足分の手当てか任意売却を考える
- 共有名義の家は2人の同意がないと売れず、連帯保証は離婚しても外れない
- 手残りは2分の1ずつが原則で、財産分与として受け取ったお金に贈与税は通常かからない
- 3,000万円控除は共有者1人ごと。家を出た側は住まなくなってから3年後の年末までに売る
- 住み続ける選択肢はローン・名義の整理が残る。期限が迫るなら買取も比較する
離婚と家の問題は、数字が分からないまま話し合うほどこじれます。まずは家が今いくらで売れるのかを確認し、ローン残高と並べるところから始めてください。