「実家を売りに出したら、擁壁をやり直さないと買い手がつかないと言われた」。高低差のある住宅地では珍しくない話です。結論から言うと、古い擁壁がある家でも売ること自体はできます。ただし擁壁を作り直さないまま一般の個人の買主に売るのは難しく、価格は「更地相場からやり直し費用を差し引いた額」に近づいていきます。そして売主が最初にやるべきことは、工事の見積もりを取ることではありません。①その擁壁が確認申請と検査を経たものかを調べること、②敷地ががけ条例・盛土規制法・土砂災害区域のどれに掛かるかを調べること、この2つです。ここが分かって初めて、直してから売るべきか、直さずに手放すべきかが判断できます。この記事では、その調べ方の手順、費用と使える助成、告知で失敗しないための実務、そして3つの出口の使い分けまで順番に整理します。
古い擁壁がある家が売れにくくなる3つの理由
売れにくいのは建物が古いからではなく、「いくらかかるか分からない負担」が土地に付いてくるからです。理由は3つあります。
買主が「建て替え時のやり直し費用」を価格から引いてくる
現行の基準に適合していない擁壁が載った土地は、建て替え時に擁壁の築造からやり直す必要が生じることがあります。建築基準法19条4項は、建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合には、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならないと定めています。「今は建っているのだから大丈夫」という理屈は、新しく建てるときには通りません。
買主はこの費用を必ず織り込みます。結果として、擁壁のやり直しが必要な土地は「周辺の更地相場から工事費を引いた金額」に近い水準まで下がります。
担保評価が伸びず、買主の住宅ローンがまとまりにくい
買主が住宅ローンを使う場合、金融機関はその土地・建物を担保として評価します。建て替えに制約がある土地、災害リスクを抱えた土地は担保評価が伸びにくく、希望額まで融資が付かない、あるいは自己資金の上積みを求められることがあります。買主が現金を積み増せなければ、その商談は流れます。
この構造は、擁壁に限らず「買主のローンが通りにくい物件」に共通して起きます。旧耐震基準の家が売れにくい理由や、増築部分が未登記のまま残っている家でも同じことが起きます。売主側から見れば、値下げしても買主のローンが通らないので売れない、という厄介な状況になります。
崩れたときの責任の所在が読みにくい
擁壁は隣地との境界付近に築造されていることが多く、所有者が誰なのか、補修費用を誰が負担するのかがはっきりしないケースがあります。上の宅地と下の宅地のどちらの所有物なのか、造成時の図面が残っていないと判断できないこともあります。さらに擁壁が崩れて隣地や道路に被害が出れば、土地工作物の管理責任が問題になり得ます。ここが曖昧なまま売り出すと、内見までは来ても契約に進まない、という状態が続きます。
まず確認する──その擁壁は適法か、既存不適格か
見積もりより先にやるべきは、その擁壁の位置づけの確認です。確認申請と検査を経て造られたものか、記録が一切残っていないものかで、売り方も価格も変わります。
高さ2mを超える擁壁は工作物の確認申請が必要
建築基準法88条と建築基準法施行令138条1項5号により、高さが2mを超える擁壁は工作物として指定されており、築造にあたって確認申請が必要です。申請が必要な工作物は、工事が完了したら完了検査を受け、検査済証の交付を受けることになります。つまり適法に造られた高さ2m超の擁壁であれば、確認済証と検査済証が存在するはずです。
また施行令142条は擁壁の構造について、鉄筋コンクリート造・石造など腐食しにくい材料を用いること、水抜穴を設けて裏面に水が溜まらないようにすることなどの技術的基準を定めています。水抜穴が見当たらない、あるいはすべて詰まっている擁壁は、この基準を満たしていない可能性があります。
検査済証がないときの調べ方
手元に検査済証がなくても、そこで止まる必要はありません。特定行政庁(都道府県や市の建築主事を置く部署)は建築確認や検査に関する台帳を整備・保存しており、その記載事項について証明書の交付を受けられる制度があります。たとえば福岡市の建築確認等台帳記載事項証明書のように、各特定行政庁が交付申請の窓口を設けています。申請には建築当時の地名地番など、物件を特定する情報が必要です。手順は次のとおりです。
- 売却する土地の所在地を管轄する特定行政庁(建築指導課など)を調べる
- 建築当時の地名地番、建築年のおおよその時期を用意する
- 台帳記載事項証明書の交付を申請し、確認済証・検査済証の番号の有無を確認する
- あわせて建築計画概要書が閲覧できるかを窓口で確認する
ただし、台帳に検査の記録がない場合や、古い年代で台帳そのものが残っていない場合は証明書が発行されません。これは「違法」と確定したのではなく「記録が確認できない」状態です。買主にはこの事実をそのまま伝え、その前提で条件を組み立てます。
二段擁壁・増積み・空石積みは特に注意
実務上、買主や不動産会社が特に警戒する形状があります。ひとつは、既存の擁壁の上にさらに擁壁やブロックを積み増した二段擁壁・増積みです。下段の擁壁は上段の荷重を想定して設計されていないため、全体としての安全性が確認できません。もうひとつは、モルタルなどで固めずに石を積み上げただけの空石積みです。次のような特徴が見られる場合は、早い段階で自治体の建築指導課に相談しておくと、後の商談で慌てずに済みます。
- 擁壁の上にブロック塀などが積み増しされている(二段擁壁・増積み)
- 石を積んだだけで、コンクリートで一体化されていない
- 水抜穴がない、または土砂で完全に塞がっている
- 壁面が前にはらみ出している、目地がずれている
- ひび割れから水がしみ出している、白い析出物が付いている
国土交通省のチェックシートで自己点検する
専門家に頼む前の一次確認には、国土交通省が公開している資料が使えます。我が家の擁壁チェックシート(案)は、自宅の擁壁の危険度の程度をおおまかに知りたい居住者向けに作られたもので、専門知識がなくても項目に沿って自己点検できます。より詳細な評価方法としては宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)が公開されています。
この段階で現状を写真に残しておくと、後の告知書の記載や、買主・買取業者への説明にそのまま使えます。
がけ条例・盛土規制法・土砂災害区域で何が起きるか
擁壁そのものの状態と並んで重要なのが、その敷地がどの規制に掛かっているかです。自治体ごとに内容が異なり、同じような高低差の土地でも扱いが変わります。混同されがちな制度を整理します。
がけ条例は建築基準法40条に基づく自治体条例
いわゆる「がけ条例」は単独の法律ではなく、建築基準法40条に基づいて地方公共団体が条例で付加している制限です。がけの定義も規制内容も自治体ごとに違います。たとえば東京都建築安全条例6条は、高さ2mを超えるがけの下端からの水平距離ががけ高の2倍以内のところに建築物を建築し、または建築敷地を造成する場合は、高さ2mを超える擁壁を設けなければならないと定めています。ただし、斜面のこう配が30度以下のもの、堅固な地盤を切って斜面としたもの、特殊な構法によるもので安全上支障がない場合はこの限りでない、という除外規定が置かれています。
この「がけ高の2倍」という距離制限が効くと、敷地の中で建物を建てられる範囲が実質的に狭まり、買主が想定していた建物が入らないという事態が起きます。売却前に自治体の建築指導課で確認しておくと、商談中に条件が覆るのを防げます。
盛土規制法(2023年5月26日施行)の規制区域
2021年7月の静岡県熱海市の土石流災害を契機に宅地造成等規制法が抜本的に改正され、宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)として2023年5月26日に施行されました。土地の用途(宅地・農地・森林等)にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する枠組みです。都道府県知事等が指定する宅地造成等工事規制区域内では、一定規模以上の盛土・切土に許可が必要になります。国土交通省が公表している制度の概要によれば、許可の対象は次の規模です。
- 高さ1mを超える崖を生ずる盛土
- 高さ2mを超える崖を生ずる切土
- 盛土と切土を同時に行い、高さ2mを超える崖を生ずるもの
- 崖を生じない場合でも、高さ2mを超える盛土
- 盛土・切土をする土地の面積が500平方メートルを超えるもの
規制区域内で擁壁をやり直す場合、工事に許可が必要になり、中間検査や完了検査といった手続きも伴います。工事の期間とコストがその分だけ増えるということです。
土砂災害警戒区域・特別警戒区域に入っている場合
土砂災害防止法に基づく区域指定も、擁壁の状態とは別に土地の売りやすさを左右します。土砂災害警戒区域(イエローゾーン)の指定自体は建築を禁止するものではありませんが、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)になると規制の性質が変わります。東京都建設局の解説によれば、特別警戒区域では住宅・宅地分譲等のための開発行為(特定開発行為)は、対策工事の計画が安全確保のための技術的基準に適合すると都道府県知事が判断した場合に限って許可されます。また居室を有する建築物には、土砂災害を防止・軽減するための構造基準への適合が求められ、建築確認の対象になります。
そして売却の場面では、これらの区域指定は宅地建物取引業法35条の重要事項説明の対象です。取引の対象となる宅地・建物が土砂災害警戒区域内にあるときはその旨を説明する義務があり、造成宅地防災区域も同様です。売主が黙っていても、契約前に必ず買主へ開示されます。
| 制度 | 根拠 | 目安となる数字・内容 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| がけ条例 | 建築基準法40条に基づく自治体条例 | 東京都の例:高さ2m超のがけの下端から、がけ高の2倍以内に建築・造成する場合は高さ2m超の擁壁が必要(こう配30度以下等は除外) | 自治体の建築指導課 |
| 盛土規制法 | 宅地造成及び特定盛土等規制法(2023年5月26日施行) | 規制区域内では、崖を生ずる盛土1m超・切土2m超、面積500㎡超などに許可が必要 | 都道府県・市の担当課 |
| 土砂災害警戒区域 | 土砂災害防止法 | 建築の禁止ではないが、重要事項説明の対象 | 都道府県の砂防担当部署 |
| 土砂災害特別警戒区域 | 土砂災害防止法 | 特定開発行為が許可制。居室を有する建築物に構造規制がかかる | 都道府県の砂防担当部署 |
| 造成宅地防災区域 | 盛土規制法 | 災害防止措置の努力義務。重要事項説明の対象 | 都道府県・市の担当課 |
擁壁のやり直し費用と、売却価格への跳ね返り方
擁壁工事の金額は、高さ・延長・敷地への進入路の広さ・地盤の状態によって大きく変わるため、「1件あたりいくら」という一律の相場を示すことはできません。ただし費用がどういう項目の積み上げでできているかを知っておけば、複数社の見積もりを比較できます。
工事費に含まれるもの・別途になりやすいもの
擁壁工事の見積書は、本体の工事費だけを見ていると後から追加が乗ります。
| 項目 | 内容 | 見積書での扱われ方 |
|---|---|---|
| 既存擁壁の撤去 | 古い擁壁の解体・搬出 | 本体と別立てが多い |
| 擁壁本体 | 掘削、配筋、型枠、コンクリート打設、水抜穴 | 見積書の中心。高さと延長で変動 |
| 仮設・土留め | 工事中に土砂が崩れないようにする仮設材 | 高低差が大きいほど増える |
| 残土処分 | 掘削で出た土の運搬・処分 | 数量で変動。別途明記されるか要確認 |
| 申請・検査 | 工作物の確認申請、盛土規制法の許可、構造計算 | 設計費として計上。抜けやすい項目 |
| 近隣対策・仮住まい | 隣地の養生、境界の再測量、工事中の仮住まい | ほぼ別途。見積書に載らないことも |
見積もりでは、申請費用と残土処分が含まれているかを必ず確認してください。この2項目が「別途」だと、後から総額が大きく動きます。
「更地相場−工事費」に近づく値付けの仕組み
擁壁のやり直しが必要な土地の値付けは、買主側の計算から逆算されます。買主は「この土地を使える状態にするまでにいくらかかるか」を先に見積もり、その金額を周辺の更地相場から差し引いて購入可能額を出します。仮に周辺の更地相場が3,000万円の地域で、擁壁のやり直しに1,000万円かかると見込まれれば、買主が出せる金額は2,000万円前後まで下がる計算です。これは値切られているのではなく、負担を誰が持つかを金額に置き換えているだけです。裏を返せば「工事費を売主が負担して直してから売る」ことと「工事費のぶん安く売る」ことは、金額の上では近い意味を持ちます。
違いが出るのは、工事費が読み切れないときです。地盤の状態で金額が振れる可能性があると、買主はリスク分を上乗せして低めに見積もります。売主が事前に見積もりと調査結果を用意しておけば、この上乗せ分を圧縮できます。
直してから売るのが得になる条件・ならない条件
擁壁を直してから売るべきかどうかは、次の条件で切り分けられます。
- 直したほうが有利になりやすい:工事費が読み切れており、周辺に土地の需要があり、工事期間を待てる資金と時間の余裕がある
- 直さないほうが現実的:工事費の見積もりが会社によって大きく振れる、規制区域内で許可手続きに時間がかかる、相続税の納税や住み替えの期限が迫っている
見落とされやすいのが、工事期間中も固定資産税や管理の手間が発生し続ける点です。空き家のまま順番待ちをしている間に建物側の劣化が進み、解体費用の負担まで重なることもあります。
補助金・助成・融資は使えるのか
擁壁の改修には、自治体の助成制度や公的融資が用意されている場合があります。全国一律の制度ではないため、まず自分の自治体に制度があるかを確認します。
自治体の擁壁助成と専門家派遣(仙台市の例)
公表されている例として、仙台市の宅地擁壁の支援制度では、危険度を診断する専門家の派遣制度と、安全対策工事に係る助成金制度が設けられています。助成は工事費用のうち100万円を超えた金額の3分の1で、上限は200万円。対象は、宅地造成の安全基準が強化された2006年以前に造られ、高さが2m以上ある擁壁とされています。
注目したいのは、助成の上限が200万円であるのに対し、擁壁のやり直し工事は規模によってはそれを大きく上回る点です。「補助金が出るなら直そう」と考える前に、助成額と工事総額の差を確認しておく必要があります。また工事助成より先に使いたいのが専門家派遣で、売却前の一次調査として費用をかけずに状態を把握できます。自治体の宅地防災や開発調整の担当課に、同種の制度があるか問い合わせてみてください。
住宅金融支援機構の宅地防災工事資金融資
助成では足りない部分の資金調達として、住宅金融支援機構の宅地防災工事資金融資があります。宅地造成及び特定盛土等規制法、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律、建築基準法などに基づいて地方公共団体から勧告または改善命令を受けた方が、擁壁の設置などの宅地防災工事を行う際の資金を対象とする融資制度です。
注意点は、勧告や改善命令を受けていることが前提だということ。「古くて不安だから直したい」という段階では対象になりません。逆に、行政から勧告や命令が出ている状態は売却においてかなり重い事情であり、買主への説明も避けて通れません。
申請前に着工すると対象外になる
自治体の助成制度で最も多い失敗が、申請前に工事を始めてしまうことです。たとえば横浜市の崖地防災対策工事助成金では、交付決定前に工事契約または工事に着手している場合は制度を利用できません。売却を前提に工事を検討するなら、次の順番を守ってください。
- 自治体の担当課に制度の有無と対象要件を確認する
- 専門家派遣などの診断制度があれば先に使う
- 複数社から見積もりを取り、助成の対象範囲と突き合わせる
- 交付決定を受けてから契約・着工する
この手順を踏むと、着工までに数か月かかることも珍しくありません。売却の期限が決まっているなら、この時間が確保できるかを先に確認してください。
売主の責任──契約不適合責任と告知の実務
擁壁のある土地の売却で売主が最も損をしやすいのが告知の場面です。「言わなければ安く見られずに済む」という判断が、引き渡し後の紛争につながります。
免責特約は「知りながら告げなかった」で無効になる
個人が売主の場合、契約書で契約不適合責任を免責とする特約を入れることが一般的です。しかし民法572条は、売主は担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができないと定めています。
つまり、ひび割れやはらみ、水抜穴の詰まり、過去の補修歴を認識していながら伝えなかった場合、免責特約があってもその部分は責任を追及され得ます。逆に不具合を具体的に伝え、買主が了承した内容を契約書に明記していれば、後から責任を問われる余地は小さくなります。告知は売主を守るための手続きだと考えたほうが実態に合っています。
通知期間と、売主が不動産会社の場合の違い
民法566条は、種類または品質に関する契約不適合について、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しないと、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除ができなくなると定めています。ただし、売主が引渡しの時に不適合を知っていた場合や、重大な過失によって知らなかった場合は、この期間制限は適用されません。
一方、売主が不動産会社(宅地建物取引業者)で買主が業者でない場合は、宅地建物取引業法40条により、通知期間を引渡しの日から2年以上とする特約を除いて、民法の原則より買主に不利な特約は結べず、これに反する特約は無効です。ここが個人間売買との大きな違いで、買取価格にはこの責任の重さの差も反映されています。
告知書と重要事項説明に何が載るか
実務では、売主が記入する「物件状況等報告書(告知書)」に擁壁の状態を書き込みます。書くべきは印象ではなく事実です。次の項目を、分かる範囲で具体的に記載します。
- 擁壁の築造時期と、造成した業者が分かるか
- 確認済証・検査済証の有無、台帳記載事項証明書で確認できたか
- ひび割れ・はらみ・傾き・漏水の有無と、気づいた時期
- 過去の補修工事の内容と時期
- 行政からの指導・勧告・改善命令の有無
- 擁壁の所有者が誰か、隣地との取り決めがあるか
一方、区域指定や法令上の制限は、仲介する不動産会社が重要事項説明として調査・説明します。売主が先に開示しているか、後から発覚するかで、商談の空気は大きく変わります。
直さずに手放す出口──仲介・古家付き土地・買取の比較
実際の出口は大きく3つに分かれます。正解が1つあるわけではなく、資金と時間の余裕、そして工事費の読みやすさで選びます。
擁壁をやり直してから仲介で売る
工事を済ませ、確認申請と検査を経た擁壁にしてから売り出す方法です。買主の不安要素が消えるため周辺相場に近い価格で売れる可能性が高い反面、工事費を先に持ち出す必要があり、規制区域内なら許可手続きの時間も加わります。工事が終わるまで売り出せないため、資金化までの期間は最も長くなります。
工事後の売却価格が「工事前の価格+工事費」を上回る見込みがあるかどうかを、複数の不動産会社の査定で確かめてから判断してください。
現況のまま古家付き土地として仲介に出す
擁壁も建物もそのままの状態で、価格を調整して仲介に出す方法です。工事費の持ち出しがなく、購入後に自分で計画を立てたい買主に当たれば成立します。ただし擁壁のやり直しを前提にできる買主は限られ、住宅ローンの審査も通りにくいため、売却期間が読みにくいのが難点です。
この方法では、資料を揃えて出すことが成否を分けます。台帳記載事項証明書の結果、擁壁の写真、可能なら工事の概算見積もりまで用意しておくと、買主が「いくらかかるか分からない」という理由で撤退するのを防げます。再建築不可物件の売却と同様、情報開示の量が成約率に効いてきます。
不動産会社の買取で現況のまま引き渡す
擁壁を直さず、現況のまま不動産会社に直接買い取ってもらう方法です。買主が事業者になるため、擁壁のやり直しや許可手続きを織り込んだうえで価格が提示されます。個人の買主のように住宅ローンの審査で止まることがなく、内見や条件交渉の回数も少なく済みます。価格は擁壁を直して仲介で売った場合の手取りより低くなるのが通常で、その差額が「工事をしなくて済む対価」にあたります。判断の目安は次のとおりです。
| 比較項目 | 工事後に仲介 | 現況のまま仲介 | 買取 |
|---|---|---|---|
| 売主の持ち出し | 工事費を先に負担 | 原則なし | なし |
| 価格水準 | 周辺相場に近い | 工事費を差し引いた水準 | 工事後に仲介した場合の手取りより低い |
| 期間 | 工事+販売で長い | 買主次第で読みにくい | 比較的読みやすい |
| 買主のローン審査 | 通りやすい | 通りにくい | 影響しない |
| 向くケース | 資金と時間に余裕がある | 期限に余裕があり資料を揃えられる | 期限が決まっている/工事費が読めない |
どのルートでも、先に手を付けるべきは擁壁の記録の確認と区域指定の確認です。この2つが分かれば、工事の要否も、買主が引く金額の根拠も見えてきます。売却ナビットの一括査定では、擁壁の状態や区域指定を伝えたうえで、現況のまま引き取れる会社を含めて条件を比較できます。
よくある質問
擁壁が古いというだけで、必ず作り直さないと売れませんか?
築年数の古さだけで一律に作り直しが必要になるわけではありません。問題になるのは、高さ2mを超える擁壁について工作物の確認申請と検査済証があるか、二段擁壁や増積みのように構造上の不安が明らかな造りではないか、という点です。まず国土交通省の「我が家の擁壁チェックシート(案)」で状態を確認し、そのうえで自治体の建築指導課に相談する順番をおすすめします。
擁壁の検査済証が見つかりません。それだけで売却できなくなりますか?
検査済証が手元にないだけで売却できなくなることはありません。特定行政庁は建築確認や検査の台帳を保存しており、台帳記載事項証明書の交付を受けることで確認済証や検査済証の番号を確認できる場合があります。ただし台帳に記載がない、台帳自体が残っていないケースもあり、その場合は「記録が確認できない擁壁」として売買条件を組み立てることになります。
擁壁のひび割れを買主に伝えずに売ったらどうなりますか?
民法572条により、売主は担保責任を負わない旨の特約をしていても、知りながら告げなかった事実については責任を免れることができません。つまり免責特約を入れていても、ひび割れやはらみを認識しながら黙っていた場合は、その部分について責任を追及されます。不具合は告知書に具体的に書き、契約書にも明記して合意を取るのが結果的に安全です。
隣地の擁壁が原因で自分の土地が売れないときはどうすればいいですか?
擁壁の所有者と土地の所有者が一致しないケースは珍しくありません。まず登記や現地の境界標、造成時の図面で擁壁がどちらの敷地内にあるかを確認します。所有関係や補修負担があいまいなまま一般の買主に売るのは難しいため、現況のまま引き取れる不動産会社の買取を含めて出口を検討することになります。