投資用マンションを売ろうと決めたとき、いちばん読みにくいのが税金です。買った値段より安く売るのだから税金はかからないはずだ、と考えていた人が、申告の段階で数十万円から百万円単位の納税を知って慌てる——これは珍しい話ではありません。
結論を先に書きます。投資用マンションの売却で中心になる税金は譲渡所得税(所得税・復興特別所得税・住民税)で、税率は所有期間によって20.315%か39.63%のどちらかです。そして賃貸に出していた物件は、経費にしてきた減価償却費の分だけ取得費が小さくなるため、売却損のつもりでも課税されることがあります。
この記事では、税額の計算手順を4ステップに分けて具体例つきで示し、確定申告の必要書類と期限、投資用だけに起きる落とし穴まで通しで解説します。自宅の売却とは前提がまったく違う点が多いので、順に確認してください。
この記事を読むとわかること
- 投資用マンションの売却でかかる税金4種類と、それぞれの金額の目安
- 譲渡所得税の計算手順と、所有期間5年の判定で間違えやすい点
- 売却損なのに税金がかかる理由(減価償却と取得費の関係)
- 確定申告の期限・必要書類と、出し忘れたときの影響
- 自宅の特例が使えない点、消費税・精算金など投資用特有の論点
この記事の結論忙しい方はここだけ
- 税金の主役は譲渡所得税。税率は売った年の1月1日時点で所有5年以下なら39.63%、5年超なら20.315%で、約2倍の差がつきます。
- 賃貸していた建物の取得費は、確定申告で経費にしてきた減価償却費の累計を差し引いた金額。だから売却損でも譲渡所得がプラスになることがあります。
- 所有期間の判定は引渡し日ではなく売った年の1月1日時点。実際に5年半持っていても短期と判定される年があります。
- 確定申告は売った年の翌年2月16日から3月15日まで。譲渡所得の内訳書と確定申告書第三表(分離課税用)で申告します。
- 自宅用の3,000万円控除は使えず、売却損を給与所得と損益通算することもできません。投資用は使える特例が限られます。
投資用マンション売却でかかる税金は4種類
かかる税金は譲渡所得税・印紙税・登録免許税・消費税の4つですが、金額が大きいのは譲渡所得税だけです。残り3つは数千円から数万円の範囲に収まることが多く、消費税は課税事業者でなければ関係しません。
最初に全体像を押さえておくと、どこに時間をかけるべきかが分かります。印紙税や登録免許税は金額が小さく、契約や決済の場で自動的に処理されるため、自分で計算して悩む必要はほとんどありません。
一方で譲渡所得税は、自分で計算して翌年に申告しなければならず、金額も桁が違います。この記事の大部分を譲渡所得税の説明に充てているのはそのためです。
不動産を売って利益が出たときにかかる税金の通称です。正式には所得税・復興特別所得税・住民税の3つの合計で、給与などとは合算せずに切り離して計算する「分離課税」という方式が使われます。
税金の一覧と金額の目安
4種類の税金を、何に対してかかるのか・いつ払うのかという軸で整理します。払うタイミングが分かれていることが、資金繰りの面では重要です。
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| 税金 | 何にかかるか | 金額の目安 | 払うタイミング |
|---|---|---|---|
| 譲渡所得税 | 売却で出た利益(譲渡所得) | 利益の20.315%または39.63% | 売った年の翌年(所得税は3月15日まで、住民税はその後の納付) |
| 印紙税 | 売買契約書に貼る収入印紙 | 契約金額1,000万円超5,000万円以下で1万円(軽減後) | 売買契約時 |
| 登録免許税 | 抵当権抹消などの登記 | 抹消は不動産1個につき1,000円 | 決済・引渡し時 |
| 消費税 | 建物部分の売却代金 | 課税事業者のみ課税。土地は非課税 | 売った年の翌年の消費税申告 |
※印紙税の軽減措置は、平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される契約書が対象です(国税庁 No.7108)。金額は記載金額の区分ごとに決まっています。
この表のうち、自分で計算と申告をしなければならないのは譲渡所得税と消費税です。印紙税は契約書に印紙を貼る形で、登録免許税は登記申請の際に納めるため、司法書士や不動産会社が段取りを進めてくれます。
税金ではないが差し引かれる費用
手残りを計算するときは、税金以外の支出も忘れずに引く必要があります。代表的なものは仲介手数料、抵当権抹消の司法書士報酬、入居者がいる場合の明渡しに関する費用です。
これらのうち売るために直接かかった費用は、譲渡所得の計算上「譲渡費用」として差し引けます。国税庁は譲渡費用の例として、売却時の仲介手数料、売主が負担した印紙税、貸家の借家人に明け渡してもらうために支払う立退料などを挙げています。
修繕費や固定資産税のような維持・管理のための費用は譲渡費用になりません。売る前にリフォームした費用を全額引けると思っていると、計算が狂います。費用の内訳は不動産売却の費用一覧も参考にしてください。
- 金額が大きく、自分で計算・申告が必要なのは譲渡所得税
- 印紙税・登録免許税は数千円〜数万円で、契約・決済の場で処理される
- 仲介手数料や立退料は譲渡費用になるが、修繕費・固定資産税はならない
譲渡所得税の計算手順を4ステップで
譲渡所得は「譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)」で求め、そこに所有期間に応じた税率をかけます。順番を守って計算すれば、電卓でも出せる式です。
国税庁の示す計算式は、課税譲渡所得金額=譲渡価額(収入金額)−(取得費+譲渡費用)−特別控除額です。投資用マンションには居住用財産のような特別控除が原則ないため、実務上は特別控除額をゼロとして計算します。
STEP1〜4で税額が決まる
手順を4つに分けます。つまずきやすいのはSTEP2の取得費で、ここだけで税額が数十万円変わります。
- STEP1 譲渡価額を確定する売買代金に加えて、買主から受け取った未経過固定資産税等の精算金も収入金額に算入します。
- STEP2 取得費を計算する土地はそのまま、建物は取得価額から減価償却費相当額を差し引きます。購入時の仲介手数料や登記費用も取得費に含められます。
- STEP3 譲渡費用を差し引く売却の仲介手数料、売主負担の印紙税、立退料など、売るために直接かかった費用を引きます。
- STEP4 税率をかける売った年の1月1日時点の所有期間が5年超なら20.315%、5年以下なら39.63%をかけます。
税率の内訳は、長期譲渡所得が所得税15%+住民税5%、短期譲渡所得が所得税30%+住民税9%です(国税庁 No.3208、国税庁 No.3211)。これに復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が加わるため、合計は20.315%と39.63%になります。
譲渡費用に入るもの・入らないもの
譲渡費用の線引きは「売るために直接かかったか」です。判断に迷う項目を整理しておきます。
- 売却時の仲介手数料 → 譲渡費用になる
- 売主が負担した売買契約書の印紙税 → 譲渡費用になる
- 入居者に明け渡してもらうための立退料 → 譲渡費用になる
- 売却前の修繕費・リフォーム代 → 維持管理費用なので対象外
- 所有期間中の固定資産税 → 対象外
取得費に入れ忘れやすい3つ
- 購入時に払った仲介手数料
- 購入時の登記費用・不動産取得税
- 購入時の売買契約書の印紙税
数字で見る計算例
実際の数字に当てはめてみます。以下は制度上の計算の流れを示す例で、個別の事情によって結果は変わります。
2,000万円で買った区分を2,200万円で売った場合(長期)
- 譲渡価額:2,200万円
- 購入時の取得価額:2,000万円
- 取得費:2,000万円 − 減価償却費の累計 200万円 = 1,800万円
- 譲渡費用:80万円
- → 譲渡所得=2,200万円 −(1,800万円+80万円)=320万円
- → 所有期間が5年超なら 320万円 × 20.315% = 約65万円
同じ条件で所有期間が5年以下だと、320万円 × 39.63% = 約127万円となり、税額は2倍近くに増えます。
税額を左右するのは売却価格そのものより、取得費をいくらで計算できるかと所有期間が5年を超えているかの2点です。この2つを先に確認してから売却時期を決めてください。
売却損なのに税金がかかる理由は減価償却
賃貸に出していた建物は、確定申告で経費にしてきた減価償却費の累計が取得費から差し引かれます。だから買った値段より安く売っても、計算上は利益が出ることがあります。
これが投資用マンションの税金でもっとも誤解される点です。帳簿上の建物の価値は毎年下がっていき、売却時の取得費はその下がった後の金額になります。
事業用と非事業用で計算式が違う
多くの解説記事が「取得価額×0.9×償却率×経過年数」という式を載せていますが、これは非事業用(自宅など)の建物の計算式です。国税庁は、業務に使っていた建物については、取得してから売るまでの毎年の減価償却費の額を合計すると説明しています。
つまり賃貸していた投資用マンションは、毎年の不動産所得の計算で実際に経費に入れてきた減価償却費の累計額を使います。確定申告書の控えや減価償却費の計算明細を遡って確認する必要があり、ここを概算で済ませると申告額がずれます。
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| 区分 | どんな建物か | 償却費相当額の求め方 | 必要な資料 |
|---|---|---|---|
| 業務用(事業用) | 賃貸に出していた投資用マンション | 取得から売却までの毎年の減価償却費を合計する | 各年の確定申告書・減価償却費の計算明細 |
| 非業務用(非事業用) | 自宅・別荘など賃貸していない建物 | 取得価額×0.9×旧定額法の償却率×経過年数 | 購入時の売買契約書 |
※詳しい計算方法は国税庁 No.3261(建物の取得費の計算)をご確認ください。非業務用の償却費相当額は取得価額の95%が限度で、経過年数の6か月以上の端数は1年として数えます。
取得費が目減りすると何が起きるか
減価償却を続けてきた物件では、売却価格が購入価格を下回っていても譲渡所得がプラスになります。長く持った物件ほどこの差は大きくなります。
1,800万円で買った区分を1,600万円で売ったのに課税される例
- 譲渡価額:1,600万円(購入時より200万円安い)
- 取得費:1,800万円 − 減価償却費の累計 300万円 = 1,500万円
- 譲渡費用:60万円
- → 譲渡所得=1,600万円 −(1,500万円+60万円)=40万円
- → 長期なら 40万円 × 20.315% = 約8万円の納税
感覚としては200万円の損ですが、税務上は利益が出ている扱いになります。損切りの場面でこれが起きる仕組みはワンルーム投資の損切り売却でも詳しく解説しています。
契約書に土地と建物の内訳がないとき
減価償却の対象は建物だけなので、購入価格を土地と建物に分ける必要があります。ところが古い売買契約書には内訳が書かれていないことがあります。
この場合は合理的な方法で按分します。建物に課された消費税額が分かればそこから建物価額を逆算でき、国税庁の確定申告の手引きには、建物の標準的な建築価額表を使って建物の取得価額を計算し、全体の取得価額から差し引いて土地の価額を求める例が示されています。
契約書そのものが見つからない場合は、取得費が分からないとき、または実際の取得費が譲渡価額の5%より少ないときに使える概算取得費(譲渡価額の5%)になります。実額よりかなり小さくなるため税額が膨らみます。対処法は投資用マンションの取得費がわからないをご覧ください。
- 賃貸していた建物は、経費計上してきた減価償却費の累計を取得費から引く
- 「0.9×償却率×経過年数」の式は自宅など非事業用のもの。混同しない
- 土地建物の内訳がない契約書は、建築価額表などで合理的に按分する
所有期間5年の判定と税率の差
所有期間は引渡し日で数えるのではなく、売った年の1月1日時点で判定します。この1行を知らないと、実際には5年半持っていても39.63%を払うことになります。
国税庁は、譲渡した年の1月1日における所有期間が5年を超えるものを長期譲渡所得、5年以下のものを短期譲渡所得としています。起算点は取得の日です。
判定は「売った年の1月1日」時点
この数え方だと、暦の上では5年を超えていても短期と判定される期間が生まれます。実務ではおよそ6年目に入るまで待たないと長期にならないと覚えておくのが安全です。
- 2021年6月 取得この日が所有期間の起算点になる
- 2026年1月1日時点所有期間は4年6か月。2026年中に売ると「短期」で39.63%
- 2027年1月1日時点所有期間が5年を超える。2027年中の売却なら「長期」で20.315%
2026年12月に売れば所有期間は5年6か月ですが、判定基準日である2026年1月1日では4年6か月なので短期です。引渡しを翌年に回すだけで税率が半分近くになるケースがあるのは、この仕組みのためです。
短期と長期で税額はどれだけ違うか
税率の差を金額で見ると、判断を急ぐべきかどうかが分かります。
| 区分 | 合計税率 | 譲渡所得500万円のとき |
|---|---|---|
| 短期(5年以下) | 39.63% | 約198万円 |
| 長期(5年超) | 20.315% | 約102万円 |
※所得税・復興特別所得税・住民税の合計。1万円未満は四捨五入した概算です。
譲渡所得500万円で約96万円の差です。判定日の数え方や相続で取得した場合の扱いは短期譲渡所得は何年まで?で詳しく整理しています。
その投資用マンション、今いくらで売れるか知っていますか?
持ち続けるか、手放すか。判断の前提になるのは「現在の価格」です。
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確定申告の期限と必要書類
申告の期間は売った年の翌年2月16日から3月15日までで、納付期限も原則3月15日です。提出するのは譲渡所得の内訳書と確定申告書第三表(分離課税用)です。
国税庁は、確定申告の期間を原則としてその年の翌年2月16日から3月15日までとしています。申告と納付の期限も原則3月15日です。期限が土日にあたる年は翌営業日にずれます。
売却から納税までのスケジュール
売却してから納税までは最長で1年以上あきます。この時間差が、売却代金を使ってしまって納税資金が足りなくなる原因になります。
- 引渡し・決済売買代金と精算金を受け取る
- その年の12月31日この年の所得として確定する
- 翌年2月16日〜3月15日確定申告と所得税の納付
- 翌年6月以降住民税の納付が始まる。納税資金を残しておく
住民税は所得税より後から請求されます。所得税を払って終わったと思っていると、数か月後に住民税の通知が届いて驚くことになります。譲渡所得税の合計税率で資金を確保しておいてください。
用意する書類のチェックリスト
土地・建物の譲渡は、確定申告書第一表・第二表に加えて第三表(分離課税用)で申告し、譲渡所得の金額は譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)で計算する流れになります。
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
- 確定申告書 第一表・第二表・第三表(分離課税用)
- 売却時の売買契約書の写し
- 購入時の売買契約書の写し(取得費の裏づけ)
- 購入時・売却時の仲介手数料の領収書
- 固定資産税等の精算書(精算金の額を確認する)
- 過去の確定申告書の控えと減価償却費の計算明細
- 登記事項証明書など物件を特定できる書類
投資用で特に重要な2点
- 過去の申告書の控えがないと、減価償却費の累計が確定できず取得費を計算できません
- 精算書は売買代金とは別の書類なので、収入に入れ忘れやすい
申告が必要かどうかの線引き
譲渡所得がプラスなら申告が必要です。給与所得者については、給与を1か所から受けて年末調整が済んでいる場合、給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円を超える人が確定申告の対象とされています。
ただし20万円以下でも、医療費控除などの還付申告をするときは、その20万円以下の所得も併せて申告する必要があります。住民税の取り扱いは所得税と異なる場合があるため、お住まいの市区町村にご確認ください。
「損したから申告不要」と判断する前に、必ず減価償却費を差し引いた取得費で計算してください。損のつもりが利益だった場合、無申告のままでは期限後申告となり、本来の税額に加えて加算税や延滞税の負担が生じます。
- 申告は翌年2月16日〜3月15日、納付期限も原則3月15日
- 第三表(分離課税用)+譲渡所得の内訳書で申告する
- 住民税は後から来るので、合計税率で納税資金を残しておく
投資用だけに起きる4つの落とし穴
自宅なら使える3,000万円控除や損益通算の特例は、投資用マンションでは原則として使えません。さらに消費税と精算金という、自宅の売却では出てこない論点が加わります。
ここが自宅の売却と投資用で最も大きく分かれるところです。ネット上の「マンション売却の税金」の解説は自宅を前提にしたものが多く、そのまま当てはめると判断を誤ります。
自宅の特例は使えず損益通算もできない
居住用財産の3,000万円特別控除や軽減税率は、自分が住んでいた家に適用される特例です。賃貸に出していた投資用マンションは対象外です。
さらに重要なのが損失の扱いです。土地・建物の譲渡で損失が出ても、ほかの土地・建物の譲渡益とは相殺できますが、控除しきれない分を事業所得や給与所得などと損益通算することはできません(国税庁 No.3203)。
ある所得の赤字を、ほかの所得の黒字から差し引いて税金を減らす仕組みです。不動産所得の赤字は給与と通算できますが、売却で出た譲渡損失は別扱いで、給与からは引けません。
一定の要件を満たす居住用財産の譲渡損失には損益通算と3年間の繰越しが認められていますが、これは自宅限定の特例です。投資用マンションを売って損が出ても、給与の源泉徴収税額が戻ってくることはありません。
課税事業者なら建物に消費税がかかる
消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡を課税の対象としています。一方で土地の譲渡および貸付けは非課税取引です。
この組み合わせで何が起きるかというと、売主が消費税の課税事業者である場合、建物部分の売却代金が課税売上になるということです。土地部分には消費税はかかりません。
課税事業者かどうかは、基準期間(個人なら前々年)の課税売上高が1,000万円を超えるかなどで判定されます。賃料収入の規模が大きい方、複数戸を保有している方は、売却の翌年に消費税の申告・納税が必要になる可能性があります。該当しそうな場合は売却前に税理士へご確認ください。
固定資産税の精算金は収入に入る
引渡し日を基準に、その年の固定資産税・都市計画税を日割りで精算するのが一般的な取引慣行です。この買主から受け取った金額の扱いが、申告漏れの定番になっています。
国税庁は、譲渡代金のほかに譲渡した日から年末までの期間に対応する固定資産税および都市計画税(未経過固定資産税等)に相当する額の支払を受けた場合、その額は譲渡価額(収入金額)に算入されるとしています。
固定資産税は1月1日時点の所有者に課されるもので、買主が後から負担を引き継ぐ性質のものではありません。だから「税金の立替え分の返金」ではなく、売買代金の一部として扱われるという整理になります。
入居者がいるまま売るときの精算
オーナーチェンジで売る場合は、敷金の引継ぎや賃料の日割り精算が決済時に行われます。どれが譲渡価額に入り、どれが不動産所得側の処理になるのかを分けて考える必要があります。
借家人に明け渡してもらうために支払った立退料は、国税庁が譲渡費用の例として挙げているため、譲渡所得の計算で差し引けます。空室にしてから売るか入居中に売るかで、計算に乗る項目が変わります。
残債がある状態での売却や抵当権抹消の段取りは投資用マンションのオーバーローン売却で解説しています。
- 3,000万円控除・軽減税率は自宅の特例。投資用は対象外
- 譲渡損失は給与所得などと損益通算できない
- 課税事業者なら建物部分に消費税。土地部分は非課税
- 固定資産税の精算金は譲渡価額に算入する
税負担と手残りを抑える4つの方法
投資用で使える手は限られますが、取得費と譲渡費用を漏れなく拾うことと、引渡し時期の調整はほとんどの方に効きます。制度の特例は要件が厳しいので、使えるかどうかの確認が先です。
節税という言葉で語られがちですが、実際にできることは地味な積み上げです。効果の大きい順に4つ挙げます。
譲渡費用と取得費を漏れなく拾う
もっとも確実で、誰にでもできる方法です。取得費が100万円増えれば、長期でも約20万円、短期なら約40万円の税額が減ります。
- 購入時の売買契約書・仲介手数料の領収書を探す
- 購入時の登記費用・不動産取得税の記録を確認する
- 過去の確定申告書の控えから減価償却費の累計を正確に出す
- 売却時の仲介手数料・印紙税・立退料の領収書をまとめる
引渡し時期で税率が変わる
所有期間が5年前後の物件なら、引渡しを年明けに回すだけで短期から長期に変わる可能性があります。判定は売った年の1月1日時点なので、12月引渡しと翌年1月引渡しで税率が倍近く違う年があります。
税率だけで判断しないでください。待つ間も管理費・修繕積立金・固定資産税がかかり、空室なら家賃も入りません。待機コストと税額の差額を並べて比較することが必要です。
事業用資産の買換えの特例
事業用資産を売って別の事業用資産に買い換えた場合、譲渡益の一部について課税を繰り延べられる特例があります。ただし適用には複数の要件をすべて満たす必要があります。
買換資産の取得時期にも制限があり、国税庁は買換資産をこの期間内に取得しないときは原則としてこの特例は受けることができないとしています。売却を決める前に適用可否を確認するのが前提の制度です(国税庁 No.3405)。
税金が免除されるのではなく、支払う時期が将来に先送りされることです。買い換えた資産を次に売るときに、繰り延べた分を含めて精算します。
仲介で売れないときの買取
税金の話とは別に、そもそも売れないという問題もあります。空室が続いている、修繕積立金が値上がりしている、入居者とのトラブルがある——こうした物件は仲介で買主が見つかりにくくなります。
その場合の出口が、不動産会社に直接買い取ってもらう買取です。仲介と買取では価格と期間のバランスが逆になります。
買取のメリット
- 買主を探す期間が不要で、引渡し時期を調整しやすい
- 入居中・空室のまま、現況で引き渡せることが多い
- 持ち続ける間の管理費・固定資産税の負担を止められる
買取のデメリット
- 仲介で売れた場合に比べて価格が下がりやすい
- 会社によって提示額の差が大きい
- 譲渡所得税の計算方法は仲介と同じで、税負担は減らない
買取でも税金の計算は変わりません。変わるのは売れるまでの期間と、引渡し時期を選べるかどうかです。引渡しの年をコントロールできることは、5年判定が絡む場面では実務上の利点になります。
判断の順番
- まず取得費と減価償却の累計を確定させ、譲渡所得がプラスかマイナスかを把握する
- 次に所有期間の判定日を確認し、年内に売るか翌年に回すかを比べる
- そのうえで、仲介で売れる価格と買取価格を並べて手残りを比較する
よくある質問
投資用マンションを売って損が出たら、確定申告は不要ですか?
譲渡所得がマイナスなら譲渡所得税は生じないため、譲渡所得についての申告義務は原則ありません。
ただし「損が出た」と思っていても、減価償却費を差し引いた取得費で計算すると利益が出ているケースが多くあります。計算して初めて判明するので、内訳書を作って確認してから判断してください。
会社員です。売却益が20万円以下なら申告しなくてよいですか?
給与を1か所から受けて年末調整が済んでいる人は、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円を超える場合に確定申告が必要とされています。
20万円以下なら所得税の申告義務はありませんが、医療費控除などの還付申告をする場合は、その20万円以下の所得も併せて申告する必要があります。住民税の取り扱いは市区町村にご確認ください。
購入時の売買契約書をなくしました。取得費はどうなりますか?
取得費が分からないとき、または実際の取得費が譲渡価額の5%より少ないときは、譲渡価額の5%を概算取得費として計算できます。
ただし5%は実額よりかなり小さくなりやすく、税額が大きく膨らみます。通帳の入出金記録や金銭消費貸借契約書など、実額を裏づける資料を先に探すことをおすすめします。
売却代金に消費税はかかりますか?
土地の譲渡は消費税の非課税取引なので、土地部分に消費税はかかりません。建物部分は、事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡に当たるため、売主が消費税の課税事業者であれば課税対象になります。
免税事業者であれば売却をもって納税義務が生じることはありません。判定は基準期間の課税売上高などで決まるため、賃料収入の規模を確認してください。
売却した年の固定資産税の精算金も税金の対象になりますか?
買主から受け取った未経過固定資産税等に相当する額は、譲渡価額(収入金額)に算入されます。
売買代金とは別に受け取るため収入に入れ忘れやすく、申告漏れの原因になります。精算書を内訳書作成時に必ず手元に用意してください。
この記事のまとめ
- 金額が大きいのは譲渡所得税。印紙税・登録免許税は数千円〜数万円で済む
- 譲渡所得=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)。税率は20.315%か39.63%
- 賃貸していた建物は経費計上した減価償却費の累計を取得費から引くので、売却損でも課税されることがある
- 所有期間の判定は売った年の1月1日時点。引渡しを翌年に回すと税率が変わる年がある
- 申告は翌年2月16日〜3月15日。第三表と譲渡所得の内訳書で申告し、住民税は後から来る
- 3,000万円控除も給与との損益通算も使えない。課税事業者は建物に消費税がかかる
税額を左右するのは取得費と所有期間ですが、どちらを選ぶにも「今いくらで売れるのか」が分からないと比較ができません。まず現在の価格を確認することから始めてください。