共有持分の売却は同意不要|価格が下がる理由と税金・買取での手放し方

共有持分の売却に他の共有者の同意が不要な理由と、価格が下がる仕組み・譲渡所得の税金・共有物分割請求のリスクを解説する記事のイメージ

兄弟で相続した実家の名義が、いつまでも共有のまま残っている。固定資産税だけは毎年引き落とされるのに、売る話をすると誰かが反対する。自分の分だけでも手放せないものか——そう考えて調べ始めた方が多いはずです。

結論から言えば、自分の共有持分だけなら、他の共有者の同意も通知もなく売れます。ただし持分だけの売却は、全体の時価に持分割合を掛けた額より安くなるのが普通で、売ったあとに残った共有者が訴訟に巻き込まれることもあります。

この記事では、同意が不要な法律上の理由、価格が下がる仕組み、譲渡所得の計算と税率、そして売却後のトラブルを避ける進め方を、国税庁と法務省の公表資料をもとに整理します。

この記事を読むとわかること

  • 自分の持分だけなら同意なく売れる理由と、不動産ごと売る場合との違い
  • 持分だけの売却で価格が下がる3つの理由と、全体売却との比較
  • 譲渡所得の計算方法・税率20.315%と39.63%の分かれ目・取得費5%ルール
  • 売却後に買主から共有物分割請求を起こされるリスクと回避策
  • 共有者が音信不通のときに使える2つの裁判手続き

この記事の結論

  1. 共有持分の処分ができるのは持分を持つ本人だけです。だから自分の持分を売るのに他の共有者の同意はいらず、逆に不動産「全体」を売るには共有者全員の同意が必要になります。
  2. 持分だけを買った人は単独で使うことも建て替えることもできないため、全体の時価に持分割合を掛けた額より低い価格になるのが一般的です。全体売却のほうが手取りは大きくなりやすいです。
  3. 税率は売った年の1月1日時点の所有期間で決まります。5年超なら20.315%、5年以下なら39.63%で、900万円の利益なら約174万円の差になります。
  4. 購入時の契約書がないと取得費は売った金額の5%しか認められず、1,000万円で売れば取得費は50万円しか引けません。相続した持分なら被相続人の取得費と取得時期を引き継げます。
  5. 持分を買い取った業者が共有物分割請求を起こし、結果として不動産全体が競売になることがあります。売る前に他の共有者へ声をかけておくのが最大の予防策です。

共有持分の売却に他の共有者の同意は必要ない

結論

自分の共有持分を売るのに、他の共有者の同意も事前の通知もいりません。同意が必要になるのは、不動産「全体」を売るときです。

共有名義の不動産では、「誰か1人が反対したら何もできない」と思われがちです。しかし何もできなくなるのは共有物そのものを動かす場合で、自分の持分という権利は別です。

用語の補足:共有持分

1つの不動産を複数人で所有しているときの、各人の所有権の割合のことです。「持分3分の1」なら、建物の特定の一室ではなく、不動産全体に対して3分の1の権利を持っているという意味になります。

持分を処分できるのは本人だけという大原則

法務省の法制審議会で民法の共有制度を見直した際の資料には、共有持分の売買や抵当権の設定などの処分ができるのは共有者本人に限られ、他の共有者が持分を処分することはできないと整理されています(法務省・民法・不動産登記法部会資料27)。

この原則は、裏返すと持分を持つ本人にとって強い武器になります。他人が自分の持分を勝手に動かせない以上、自分の持分は自分だけの判断で売れるということです。買主が他の共有者でも、まったくの第三者でも扱いは同じです。

不動産「全体」を売るには共有者全員の同意が必要

一方、土地や建物そのものを売る場合は話が変わります。同じ法務省の資料では、共有物自体の処分について、持分を処分できるのが本人に限られるからこそ、全共有者の同意が当然に必要と解する説が有力だと記されています(法務省・民法・不動産登記法部会資料25)。

つまり「全員の同意が必要」というルールは、持分の自由と同じ根っこから出ています。3人の共有者のうち1人でも売却に反対すれば、不動産ごと売ることはできません。相続した不動産で同意が得られないときの進め方は、相続で共有名義になった不動産の売却方法でくわしく整理しています。

賃貸や修繕は持分の過半数で決められる

売却と管理のあいだには中間の領域があります。共有物の管理に関する事項は、持分の価格に従ってその過半数で決めるのが原則です。短期の賃貸借などがこれにあたります。

また、形状や効用に著しい変更をともなわない軽微な変更は、2021年の民法改正(2023年4月施行)で「変更行為」から外され、管理行為として過半数で決められるようになりました。全員の同意が必要なのは、著しい変更と処分だけと覚えておくと整理しやすくなります。

やりたいこと 必要な同意
自分の持分を売る 不要(本人だけで可)
自分の持分に抵当権を付ける 不要(本人だけで可)
短期の賃貸に出す 持分の価格の過半数
軽微な修繕・改修をする 持分の価格の過半数
建物を解体する・建て替える 共有者全員
不動産そのものを売る 共有者全員

※管理・変更の区分は2021年改正後の民法の整理にもとづきます。個別の行為がどちらに当たるかは専門家にご確認ください。

POINT

同意がいるかどうかは「何を動かすか」で決まる

  • 動かすのが自分の持分なら、同意も通知も不要
  • 動かすのが不動産そのものなら、全員の同意が必要
  • 賃貸や軽微な修繕は、その中間で持分の過半数

共有持分の売却価格は持分割合どおりにならない

結論

持分だけを買った人は単独で使えず、住宅ローンも使いにくいため、全体の時価に持分割合を掛けた額より低い価格になるのが一般的です。

「全体が3,000万円で、自分は3分の1だから1,000万円」——この計算は理屈としては正しいのですが、実際の取引ではそのままの金額が付きにくいのが現実です。理由は買主の立場に立つとはっきりします。

具体例

全体3,000万円・持分3分の1の土地建物の場合

  • 不動産全体の時価:3,000万円
  • 自分の持分:3分の1
  • → 持分割合どおりに計算した金額は1,000万円
  • → ただし持分だけの売買では、この1,000万円がそのまま成立するとは限らない

買主は1,000万円を払っても、その家に住むことも建て替えることも単独ではできません。この「使えなさ」の分だけ、提示される金額は下がります。

買主が単独では使えない3つの制約

持分を買った人は共有者の1人になるだけで、不動産を自由にできる立場にはなりません。前の章の表がそのまま買主の制約になります。

  • 住む・使うには、他の共有者と使い方を決める必要がある
  • 建て替えや解体には、他の共有者全員の同意が必要
  • 不動産ごと売って現金化するにも、やはり全員の同意が必要

買主が自分の判断でできるのは、買った持分をさらに売ることと、共有物分割請求を起こすことだけです。だから持分だけを欲しがる個人の買主はほとんど現れません。

買主が住宅ローンを使いにくい

もう1つの壁が資金調達です。金融機関は原則として不動産全体に抵当権を設定したいため、持分だけを担保にした融資には慎重になります。

その結果、持分の買主は現金で買える人か、持分取引を専門にする業者に限られます。買える人が少ないということは、価格競争が起きないということでもあります。

全体で売れば時価に近づく

逆に共有者全員が合意して不動産ごと売れば、買主は完全な所有権を手に入れられます。住宅ローンも通常どおり使えるため、市場の相場に近い価格で売れる可能性が高くなります。

自分の持分だけを売る

  • 他の共有者の同意がいらず、自分だけで決められる
  • 話し合いが進まなくても現金化できる
  • 固定資産税や管理の負担から抜けられる
  • ただし価格は持分割合どおりにならない
  • 残った共有者と関係が悪化しやすい

全員で不動産ごと売る

  • 買主が完全な所有権を得るので相場に近い価格になりやすい
  • 買主が住宅ローンを使えるため買い手の幅が広い
  • 共有関係そのものが解消される
  • ただし共有者全員の同意が必要
  • 1人でも反対すると進まない
この項目のまとめ
  • 持分だけの売却は、買主が使えず・借りられないため価格が下がりやすい
  • 手取りを最大にしたいなら、まず全員での全体売却を打診する
  • 話し合いが動かないときの現金化手段として持分売却を考える

共有持分の売却先は3つある

結論

売却先は他の共有者・買取業者・第三者の3つです。価格がもっとも高くなりやすいのは他の共有者で、速さを求めるなら買取業者です。

どこに売るかで、価格も期間も売却後の人間関係も変わります。順番に見ていきます。

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売却先 価格の傾向 期間の目安 注意点
他の共有者 もっとも高くなりやすい 交渉次第 安く売ると贈与税の対象になることがある
共有持分の買取業者 持分割合どおりにはならない 短期間で現金化しやすい 業者が他の共有者へ分割請求を起こすことがある
第三者(仲介) 買い手が見つかりにくい 長期化しやすい 持分だけを欲しい個人はほとんどいない

※価格・期間は一般的な傾向で、物件の条件や共有者の数によって変わります。

他の共有者に買い取ってもらう

もっとも筋がよいのは、他の共有者に自分の持分を買ってもらう方法です。買った共有者は持分を増やせて、最終的に単独名義にできれば不動産を自由に使えるようになります。買主にとって価値が高いぶん、価格も上がりやすいのが利点です。

ただし身内同士だからといって極端に安い金額にすると、税務上の問題が生じます。

注意

個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたときは、時価と支払った対価との差額に相当する金額を、譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます。国税庁は、著しく低い価額かどうかは個々の具体的な事案に基づいて判定するとしており、譲渡所得で使われる「時価の2分の1」という基準とは別の基準だと明記しています(国税庁 No.4423)。身内への売買こそ、価格の根拠を残しておくことが大切です。

共有持分の買取業者に売る

共有持分を専門に買い取る業者もあります。現金で買うため決済が早く、話し合いが完全に止まっている場合でも自分だけ先に抜けられるのが最大の利点です。

一方で、買い取った業者はそのままでは不動産を使えないので、他の共有者に対して共有物分割請求を起こすことがあります。この点はトラブルの章でくわしく扱います。

第三者に仲介で売る

一般の仲介で第三者に売る方法もありますが、現実には買い手が見つかりにくい選択肢です。持分だけを買っても単独では使えないため、投資目的でも個人には手が出しにくいからです。

どの売却先が自分の条件に合うかは、持分割合・他の共有者との関係・急ぎ具合の3つで変わります。まずは持分だけでいくらになるのか、複数社の見解を並べて比べるところから始めるのが現実的です。

共有持分を売却したときの税金と確定申告

結論

譲渡所得は「売った金額-(取得費+譲渡費用)」で計算し、税率は売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えるかどうかで20.315%と39.63%に分かれます。

持分を売って利益が出れば、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。共有だからといって特別な税目があるわけではなく、計算を持分割合で按分する点が違うだけです。

譲渡所得は持分割合に応じて計算する

国税庁は、共有の不動産を売った人の譲渡所得の計算は共有者の所有権持分に応じて行うとしています。確定申告書も共有者が1人ずつ提出します(国税庁 No.3308)。

課税される金額は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を引き、さらに特別控除額を差し引いて求めます(国税庁 No.3202)。

用語の補足:譲渡費用

売るために直接かかった費用のことで、仲介手数料や売買契約書の印紙税などが含まれます。不動産の譲渡に関する契約書の印紙税の軽減措置は、令和9年3月31日まで延長されています(国税庁 No.7108)。

なお、居住用財産の3,000万円の特別控除については、共有のマイホームを売った場合に適用を受けられるかどうかは共有者ごとに判定し、特別控除額は共有者全員で3,000万円ではありません(国税庁 No.3308)。自分が住んでいた家の持分を売る場合は、要件に当てはまるか確認する価値があります。

税率は1月1日時点の所有期間で決まる

所有期間が5年を超えるかどうかで税率が大きく変わります。注意したいのは、判定の基準日が売却日ではなく、売った年の1月1日である点です。

区分 1月1日時点の所有期間 税率
長期譲渡所得 5年を超える 所得税15%+住民税5%(復興特別所得税を含め20.315%)
短期譲渡所得 5年以下 所得税30%+住民税9%(復興特別所得税を含め39.63%)

※税率は国税庁 No.3208・国税庁 No.3211にもとづきます。復興特別所得税は基準所得税額の2.1%が上乗せされます。

国税庁の短期譲渡所得のページでは、課税短期譲渡所得金額が800万円の場合に所得税240万円・住民税72万円という例が示されています。同じ利益でも長期と短期で手取りが大きく変わるため、売却時期の判断材料になります。くわしい判定方法は短期譲渡所得は何年まで?税率39.63%の落とし穴でも解説しています。

取得費が分からないときは売った額の5%

共有持分の売却でもっとも税額を左右するのが取得費です。先祖伝来の土地建物など取得費が分からない場合は、売った金額の5%相当額を取得費にできます。国税庁は、3,000万円で売った場合は150万円が取得費になるという例を示しています(国税庁 No.3258)。

5%しか引けないということは、売った金額のほぼ全額が利益として課税されるということです。契約書を1枚探せるかどうかで税額が百万円単位で変わります。

具体例

持分を1,000万円で売り、取得費が分からない場合

  • 売った金額:1,000万円
  • 概算取得費:1,000万円×5%=50万円
  • 譲渡費用:50万円
  • → 譲渡所得は 1,000万円-(50万円+50万円)=900万円
  • → 長期(20.315%)なら税額は約182万8千円
  • → 短期(39.63%)なら税額は約356万7千円

同じ900万円の利益でも、1月1日時点の所有期間が5年を超えているかどうかで約174万円の差が出ます。

相続した持分は取得時期も引き継ぐ

相続で取得した持分については、被相続人が取得した時期をそのまま相続人が引き継ぎます。長期か短期かの判定は、被相続人が取得した時から相続人が譲渡した年の1月1日までの所有期間で行います(国税庁 No.3270)。

相続してから1年しか経っていなくても、親が30年前に買った家なら長期譲渡所得になります。相続直後の売却が短期の高い税率になることは、通常ありません。

具体例

相続した持分3分の1を1,000万円で売る場合

  • 売った金額:1,000万円
  • 取得費:被相続人の購入価額から持分按分して300万円
  • 譲渡費用:50万円
  • → 譲渡所得は 1,000万円-(300万円+50万円)=650万円
  • → 被相続人の取得時から5年超なので長期。税額は 650万円×20.315%=約132万円

契約書が残っていた分だけ取得費が250万円増え、取得費不明の場合と比べて税額が約50万円下がっています。

この項目のまとめ
  • 譲渡所得は持分割合で按分し、確定申告は共有者が1人ずつ行う
  • 税率の判定基準日は売却日ではなく、売った年の1月1日
  • 取得費が分からないと5%しか引けないので、まず契約書を探す
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共有持分を売却する流れと必要書類

結論

持分割合の確認から始め、査定・契約・決済と進み、売った翌年の確定申告まで終えて一区切りです。全体売却と違い、他の共有者を待つ工程がありません。

手続き自体は通常の不動産売却と大きく変わりません。違うのは、自分の名義部分だけを対象にする点と、共有者の予定に左右されない点です。

5つのSTEPで進める

  1. 登記簿で持分割合を確認する法務局で登記事項証明書を取り、自分の持分が何分の何か、共有者が何人いるかを確定させる。
  2. 持分だけでいくらになるか査定を取る持分の取引を扱う会社に複数当たり、金額と条件を並べて比較する。同時に他の共有者へ買い取る意思を確認する。
  3. 売買契約を結ぶ対象が持分であることと持分割合を契約書に明記する。契約金額に応じた印紙税がかかる。
  4. 決済と持分移転登記代金を受け取り、持分の移転登記を行う。登記が完了すると名義が買主に変わる。
  5. 翌年に確定申告する利益が出た場合は譲渡所得として申告する。共有者それぞれが自分の分を申告する。

登記簿で持分割合を確認する

意外に多いのが、自分の持分割合を正確に知らないまま売却の相談を始めてしまうケースです。遺産分割協議書の記載と登記の内容が食い違っていることもあります。

売却の準備として、次の書類をそろえておくと査定も契約もスムーズに進みます。

  • 登記事項証明書(持分割合と共有者の確認)
  • 固定資産税の納税通知書(評価額と課税の状況)
  • 購入時の売買契約書・領収書(取得費の証明)
  • 測量図・建物の図面(あるもので可)
  • 本人確認書類と印鑑証明書
  • 相続で取得した場合は、遺産分割協議書と相続登記の完了書類

このうち取得費を左右するのが購入時の契約書です。見つからない場合は通帳の記録や住宅ローンの契約書も手がかりになります。

確定申告までが一区切り

譲渡所得の申告は、原則として売却した翌年の2月16日から3月15日までの確定申告期間に行います。土地や建物の譲渡所得は、申告書第一表・第二表に加えて申告書第三表(分離課税用)を使って申告します。

  1. 売却した年決済・持分移転登記が完了し、代金を受け取る
  2. 翌年1月取得費や譲渡費用の資料をまとめ、譲渡所得を計算する
  3. 翌年2月16日〜3月15日確定申告期間。申告書第三表(分離課税用)で申告・納付する
図:共有持分を売ってから確定申告までの時間の流れ
注意

確定申告の期間は年によって変わることがあり、過去には全国一律で期限が延長された年もありました。申告する年の国税庁の案内を必ず確認してください。

売却後に起こりやすいトラブルと回避策

結論

持分を買い取った業者が共有物分割請求を起こし、結果として不動産全体が競売になることがあります。売る前に共有者へ声をかけておくのが最大の予防策です。

自分の持分を売ることは法律上まったく問題ありません。ただし売った先が何をするかまでは、売主がコントロールできません。ここが持分売却のいちばんの落とし穴です。

買主から共有物分割請求を起こされる

持分を買った人は共有者の1人になりますが、そのままでは不動産を使えません。そこで共有関係を解消するために、裁判所へ共有物分割請求を起こすことがあります。

2023年4月1日に施行された改正民法では、協議が調わないとき、または協議をすることができないときに分割を請求でき、裁判所は現物分割と、債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法(賠償分割)による分割を命じられます。競売は、これらの方法で分割できないとき、または分割によって価格を著しく減少させるおそれがあるときに限って命じられます(法務省・共有物分割に関する改正資料)。

  1. 自分の持分を業者に売る同意も通知も不要。名義が業者に移る
  2. 業者が共有者の1人になるただし単独では使えない
  3. 業者が共有物分割請求協議が調わなければ訴訟へ
  4. 現物分割・賠償分割・競売分割できない場合に限り競売になる
図:持分を売ったあとに起こりうる流れ

売った本人はもう共有者ではないので、この訴訟には直接関係しません。しかし残された共有者は、持分を買い取る資金を用意するか、不動産を失うかの選択を迫られることになります。手続きの費用や期間は共有物分割請求とは?費用・期間と競売リスクにまとめています。

売る前に共有者へ声をかけておく

回避策はシンプルです。業者に売る前に、他の共有者へ「自分の持分を買い取る意思があるか」を確認することです。

共有者が買い取ってくれれば、価格は高くなりやすく、訴訟のリスクもなくなります。買い取れないと言われたうえで売るのであれば、少なくとも不意打ちにはなりません。

POINT

売却前に踏んでおきたい3つの順番

  • まず全員での全体売却を打診する(手取りが最大になりやすい)
  • 次に他の共有者への持分売却を打診する
  • どちらも動かないときに業者への持分売却を検討する

相続した不動産を売って現金で分ける場合は、登記を代表者の単独名義にするか共有名義にするかで手続きと税金が変わります。この整理は換価分割は単独名義と共有名義どっちが得?でくわしく扱っています。

この項目のまとめ
  • 買主は共有物分割請求を起こせる立場になる
  • 競売は現物分割・賠償分割ができない場合に限られる
  • 売る前の一声が、残る共有者とのトラブルを防ぐ

共有者が音信不通・行方不明のときの選択肢

結論

自分の持分だけなら共有者が行方不明でも売れます。不動産ごと売りたい場合は、2023年4月に始まった所在等不明共有者の持分取得・譲渡権限付与の裁判が使えます。

「共有者の1人と何十年も連絡が取れない」という相談は珍しくありません。以前は打つ手が限られていましたが、2021年の民法改正で新しい制度が整いました。

所在等不明共有者の持分を裁判で取得する

不動産が数人の共有に属する場合に、共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、裁判所は共有者の請求により、請求した共有者にその持分を取得させる裁判をすることができます(民法262条の2第1項)。請求者が複数いる場合は、各共有者の持分の割合に応じて按分して取得させます。

この裁判をする前に、裁判所は申立人に対し、所在等不明共有者のために裁判所が定める額の金銭を供託し、その旨を届け出るよう命じなければならないとされています。事件は対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所が扱います(裁判所・所在等不明共有者に関するQ&A)。

裁判所から持分の譲渡権限をもらう

もう1つの制度が譲渡権限の付与です。裁判所は、所在等不明共有者の持分を特定の者に譲渡する権限を、他の共有者に与える裁判をすることができます。これを使えば、行方不明の共有者の持分も含めて不動産全体を第三者へ売ることが可能になります。

この場合も供託命令が前提です。譲渡後、所在等不明共有者は譲渡した共有者に対して、不動産の時価を持分に応じて按分した額の支払いを請求できます。

注意

支払いの基準になるのは売れた金額そのものではなく、不動産の時価を持分に応じて按分した額です。相場より安く売れば、その差額を自分で負担することになりかねません。価格の妥当性を示す査定書などを残しておく必要があります。

相続登記が済んでいないときは先に登記

そもそも相続登記が済んでいないと、自分の持分がどれだけあるのか登記上はっきりしません。この状態では持分の売却も裁判手続きも進みません。

2024年4月1日から相続登記の申請は義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。遺産分割で不動産を取得した場合は、遺産分割の日から3年以内が期限です(法務省・相続登記の申請義務化の関係法令等)。期限や過料については相続登記の義務化とは|2027年3月の期限と10万円の過料で解説しています。

結論

共有持分は、他の共有者が動かなくても自分の判断だけで現金化できる資産です。ただし価格は持分割合どおりにならず、売った先が残る共有者に分割請求を起こすこともあります。まず全体売却を打診し、次に共有者への売却を打診し、それでも動かないときに持分売却を選ぶ——この順番を踏むだけで、手取りも人間関係も守りやすくなります。

よくある質問

共有持分を売ったことは、他の共有者に知られますか?

法律上の同意や事前の通知は必要ありませんが、最終的には知られます。持分が移れば登記の名義が変わり、登記事項証明書は誰でも取得できるため、名義人が入れ替わったことは確認できる状態になります。黙って売ると関係が悪化しやすいので、先に共有者へ買い取る意思があるかを確認しておくほうが安全です。

共有持分だけを売ると、持分割合どおりの金額になりますか?

そのままの金額になるとは限りません。持分だけを買った人は単独で住むことも建て替えることもできず、買主が住宅ローンを使いにくいため、全体の時価に持分割合を掛けた額より低くなるのが一般的です。

全体の時価に近い金額をめざすなら、共有者全員で不動産ごと売る方法を先に検討してください。

相続した持分を売るとき、取得費はいくらになりますか?

被相続人が取得したときの金額と取得した時期をそのまま引き継ぎます。購入時の契約書が見つからない場合は、売った金額の5パーセントを取得費とする概算取得費を使えます。

ただし概算取得費を使うと税額が大きくなりやすいので、まず契約書や通帳の記録を探してください。

共有者が行方不明でも売れますか?

自分の持分だけなら、共有者が行方不明でも売れます。不動産ごと売りたい場合は、2023年4月に始まった所在等不明共有者の持分取得や譲渡権限付与の裁判を、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる方法があります。いずれも裁判所が定めた額の金銭を供託する必要があります。

この記事のまとめ

  • 持分を処分できるのは本人だけなので、自分の持分の売却に他の共有者の同意も通知もいらない
  • 不動産そのものを売るには共有者全員の同意が必要で、賃貸や軽微な修繕は持分の過半数で決まる
  • 持分だけの売却は買主が使えず借りられないため、全体の時価に持分割合を掛けた額より安くなりやすい
  • 税率は売った年の1月1日時点の所有期間で20.315%と39.63%に分かれ、900万円の利益なら約174万円の差になる
  • 取得費が分からないと売った金額の5%しか引けないが、相続した持分なら被相続人の取得費と取得時期を引き継げる
  • 買主が共有物分割請求を起こすことがあるため、売る前に他の共有者へ声をかけておく

どの選択肢を選ぶにしても、判断の出発点は「自分の持分がいくらになるのか」という金額です。全体で売る場合との差を数字で比べられるよう、まず現在の価格を知ることから始めてください。

この記事を書いた人

売却ナビット編集部(運営:合同会社GREA)
不動産の一括査定サービス「売却ナビット」を運営。相続・老朽化・投資物件など、売りにくい不動産の売却相談を扱っています。
〒113-0033 東京都文京区本郷1-4-4 水道橋ビル6階/TEL 03-5615-9793(10:00〜18:00 年中無休・年末年始を除く)
記事内の税制・法令に関する記述は、国税庁・法務省・国土交通省などの公表情報をもとに作成しています。個別の判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください。

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